咲耶とカンザール
「マスター。いつものやつ!」
軋む扉を勢いよく開けて入ってきた冒険者たちは、定位置に座りながら注文する。
「ん? 今日はダンジョンに潜ってくると言ってたので、早く店を閉める予定だ。あまり長居されると困るぞ?」
え〜と、不満を漏らす冒険者達の前に酒を置きながら釘を刺す。
「早仕舞いするなんて言わずに、朝まで呑ませてくれよ〜」
温い酒を喉に流し込みながら、冒険者達は頼み込む。
「そうしてやりたいのは山々だが、旧い友人らが来てくれるんだ。すまんが、今晩は大目にみてくれないか? これでも食べて、ロウハの所で飲み直してくれ。」
冒険者達に振る舞われたのは、木の実と野鳥
を軽く炒って、下味をつけたものである。
「1日の締めにマスターの所で呑むのが決まりなのに……」
未練がましく喚く冒険者に、酒場の主人カンザールは顔をしかめる。
「お前たち。それ以上騒ぐならば、今後一切の立ち入りを禁じるぞ? まあ、こっちはそれでもいいがー」
温和な口調を少し変え、冒険者達を脅して見せる。
「わかった。わかりました。今日は大人しく、ロウハん所で呑む事にする。なぁ?」
仲間たちの同意を得ると、グラスに残った酒を大事に味わい席を立つ。その際、カンザールが、カウンターの上に置いてある赤い実を数人分投げてよこす。
「これは?」
「ロウハからの貰いものだが、詫びの代わりだ食べてみろ。美味いぞ?」
エルフのカンザールが美味いと言うなら、間違いなく美味いはず。
丸く赤い実を手渡されたメンバーは、各々の口に運ぶ。
ーーシャリ…シャリ……ーー
最初の一口は、外の皮が硬い印象があったが、かじった瞬間に口いっぱいに広がる濃厚な味わった事のない甘さ。
「ん〜。マジで美味い! 腹に溜まらないが何個でも食べれる!」
あまりの食い付きぶりに、これを使って酒でも出してみようかと、本気で考えるカンザール。
「なあ、これってどこかに売ってるのか? それとも、誰か栽培してるのか?」
「やっぱり、美味さにハマったか?」
うんうん。と、うなずき、これは是非商品化しなくてはと考えを改めるカンザールだった。
そんなちょっとした騒ぎの後、冒険者達を追い帰す事に成功した酒場に、カンザールの待ち人がやって来た。
「待たせたか?」
薄暗いバーカウンターに立つカンザールに、声が掛けられる。
「いや、エルフの特性で待つのは苦痛でないが、今夜ほど早く時間が過ぎて欲しいと願った事はありません!」
入り口に姿を見せたホワイトに、静かな笑みを浮かべるカンザール。
星が空へ昇り始める頃、ホワイトは咲耶達を連れて店へと顔をだす。
「紹介する。オレが仕える咲耶様だ。」
ホワイトの後ろからゆっくりと姿を見せる女性に、カンザールは目を細めるのだった。




