咲耶と秘書クロガネ
「じゃあ、そろそろ酒場に向かうか?」
酒談議が落ち着いたのか、ホワイトが片付けをしていた咲耶に声をかける。
「わかりました。こちらもあと少しで片付きます。」
使った食器を軽く布で拭き取り、籠の中にいれると、そのまま時空間収納に戻す。
慣れとは恐ろしいもので、収納庫を使いこなす自分に嫌気が差す。堕落した生活は、考えや生活行動すら手抜きしてしまうのではないか? 自問自答する咲耶に、クロガネが見透かしたかの様に言葉を掛ける。
「咲耶様。この収納庫の便利さに困惑されてるのですか?」
「はい。 ガイアに頂いた能力ですが、自分に過ぎた力は不釣り合いな気がして……」
時空間という目に見えない場所を思いながら、収納庫の中に消えている手の先を見つめる。
「収納庫自体は特別な物かもしれませんが、ドゥーロくんを除く地球組は全員持っておりますよ。」
「そうなんですか?」
「はい。神ガイアから、咲耶様に帯同する事を命じられた我々は、時空間収納庫にありとあらゆる物をいれてきてます。ほら、備えあればなんとやらって言うではありませんか。それに、なんでも便利なのは使い手次第なのですよ。薬でも過ぎれば害になりますしね。
咲耶様が心掛ければ良いのです。」
先生の様に諭すクロガネに、咲耶はこの能力に感謝の念を持って付き合うと決めた。
「ほらほら、片付けが終わったなら酒場に向かうぞ。こっちの世界には、外灯などという便利な物はないだろうからな。物騒な奴らに絡まれる前に、酒場に到着するぞ!」
咲耶達のやり取りを黙って見ていたホワイトは、会話が切れた時を見計らい出発を促した。
「さっさと行くぞ。酒がワシらを待っとる!」
「クルード。貴方って人は……」
頭を押さえてため息を吐くクロガネに、先に歩き出したホワイトが叫ぶ。
「早く来いよー。クルードの奴に置いて行かれるぞ?」
ホワイト達とかなりの距離が開き始めたので、隣の咲耶に手を出して歩き出す。
「咲耶様。少し急ぎましょう。あれでは、本当に置いていかれてしまう」
「はい。だけど、クルードさんは本当にお酒が大好きなんですね!」
しみじみといった口調の咲耶に、当然だとうなずく。
「ドワーフ族は揃いも揃って、酒好き一族。度数が高ければ高い程喜んで呑み尽くす。
まあ言ってしまえば、酒が恋人なのかもしれませんね。」
肩を竦める仕草に、咲耶は笑う。
「ふふっ。でも、何かに熱中するのは羨ましいかな。私も時間があれば、お菓子作りがしたいし……」
「はい。その件は善処致します。咲耶様がゆっくり出来る時間を早く設けてますので、もう少しお待ちください。」
秘書の役目を担うクロガネが、丁寧に頭を下げて約束する。
「急がなくても大丈夫ですよ。でも、地球にいた時のように休みの日を作ってくれると嬉しいです。」
「それは良いかもしれませんね。」
ホワイト達の後を追いかけながら、今後の事を語る2人であった。
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その頃のドゥーロ達はーー
「ハヤテ〜、白木蓮の樹ってわかるのか?」
「カー!」
ドゥーロの力ない問いに、肩から飛び立つハヤテ。様々な種類の樹から目的の物を見つけ出し、その枝に止まる。
「おー。さすがハヤテ。仕事が速いな。」
拍手をするドゥーロに、照れた様子のハヤテが可愛らしい。
「じゃあ、始めるか。」
ドゥーロは白木蓮の幹に片手をつき、目を閉じた。
「樹よ。お前の一部をオレに分けてくれよ。お前の同胞をオレの世界に根付かせる為に、力を貸してくれないか?」
ドゥーロの手がほのかに緑の色を放つ。ゆっくりと光が樹全体を包み込み、小刻みに揺れる。
樹の上の方で、パキパキっと軽い音が聞こえると、ドゥーロの足元に枝が小山になって置かれていた。
「ちょっと多すぎやしないか? でも貰っとく。たくさんの苗木を作って、お前の兄弟達を咲かせてみせるからな!」
樹から手を離し、立派な白木蓮の樹を嬉しそうに見つめるドゥーロは、ホワイト達といた時とは違った表情をしていた。
それは、白木蓮と繋がった折に感じた、花を咲かせた姿を見たからかもしれない。
甘い香り、優しい白の花。実物をこの目で見てみたい! そんな感情がドゥーロを奮起させた様だ。
「よし、やる気でた!」
ホワイトからのノルマに、それ以上を用意して見せる。と、意気込むドゥーロであった。




