閑話
ーーだれ?…… だれだ?ーー
途切れ途切れの意識。
いつからこんな状態が始まったのか? 今となっては、この者にもわからない。
揺れる意識に何か不思議な物が、流れ落ちてゆく。鈍ってしまった意識には、それが何なのか判別つかない。
ーーなに……。 これは水⁈ーー
重たい瞼を無理やり起こし、ゆっくりと自分の周りを見つめる。以前みた時は、荒れ果てた荒野ーいや、砂漠の風景が広がって、自分を飲み込む様相を見せていた。
だが今は。
ーー何が起きた? いや、何が起きているんだ?ーー
眼下に広がる風景は、水を吸い込みながらも生きようとする大地に、青々と茂る草。
そして、今自分がどんな状態なのかも思い出していた。
ーーそうか……。 ここは、自分の深層部ー
滅びの時を静かに待つ事しか出来ない自分が、抗った末に眠りと言う名の殻に閉じこもった事を知る。
ーー水なんて、久しぶりに感じる。なんて甘く優しい波動……。眠った意識を揺り起こす程にーー
絶える事なく注がれる水は、透き通るほど透明感があり、今自分が居る周辺は水溜りができ始めていた。
ーーだれだ? 私に命を分けてくれたのは?
誰なんだ? まだ自分を必要としてくれているのは?ーー
寄りかかる大樹に、ふわりと何かが落ちてくる。
それは、薄い桃色の小さな花びら。初めて目にする花びらが、静かに滴と共に舞い落ちる。
ーーあっ……。この人は⁈ーー
花びらを手の平で受けた瞬間、1人の姿が浮かび上がる。桃色の小さな花を咲かせる樹の横に、静かに佇む女性。
ーー君なのか? 私を繋ぎ止めたのは……。君は、私を必要としてくれるんだなーー
知らず知らずに流れ落ちる涙が、歓喜を表していた。
ーー必ず逢いに行く。待っていてーー
声は届かなくとも、心の中で叫ぶ。すると、女性は少し嬉しそうに笑ったように見えた。
無意識に笑顔を返すと、背中の樹にふれながら、ゆっくりとたちあがる。
ーー滅びに身を任せようと思っていたが、諦めない。あの景色を現実にする為に!ーー
咲耶がもたらした水が、一つの意識を繋ぎ止めた。それは今後、咲耶と深い関わりを持つ事になる者であったーー




