咲耶と水の流れ
さて、咲耶は今、クロガネ達から少し離れた枯れた木の根元に立っていた。
今から水を呼び出すのだから、周りにかからない配慮だ。
咲耶は手の中にある石に力を送りながら、水のイメージを心の中で描く。
ーー澄み渡る清らかな滴。私の手から溢れ落ち、大地の渇きを癒してーー
最初は何も起こりはしなかった。だが、だが、少しずつ咲耶の手の平を濡らし出す。
「咲耶様、頑張れっ……んーー」
静かに見つめるクロガネ達の中で、空気を読めない人物が、大声で声援を送る。
ホワイトが背後から羽交い締めし、ドゥーロの口を押さえる。
「このバカ者が。力を使い慣れておらぬ者に、大声で話しかけるとは……」
「本当に、何も考えていないようですね。それとも、またお仕置きが必要ですか?」
クロガネとクルードの脅しに近い問いかけに、ドゥーロは即座に黙ってうなずく。まあ、ホワイトに口を塞がれている為、喋りたくても喋れないのだが……
そんな周囲を置き去りにして、咲耶の手からどんどん水が溢れ、大地へと吸い込まれてゆく。
渇ききった大地は、遠慮と言う事を知らない。溢れ落ちてきた分だけ自分の体内に吸収する。
咲耶は、自分の手の平の石を静かに見つめながら、枯れた木の根元に宝石を埋め込む。
この石の護り主になってほしいと、願いを込めながらーー
「クルードさん。こんな感じで良かったですか?」
自信なさげに聞いてくる咲耶に、クルードは手放しで褒めた。
「上出来じゃ、咲耶様。岩から滲み出す湧き水のような量ならば、大地は腐りはせぬじゃろう。」
「それに、水の気配を感じ取った数多の者達が、守ってくれるようですよ?」
クロガネ達の言葉を肯定するように、咲耶が埋めた土の周りに、ほのかな発光体が集まりだす。
「あれは?」
「この世界の精霊の素体かのぉ? 精霊の存在になる前の小さな光たちじゃ。この分だと、時間が掛かるかもしれんが、妖精、精霊の類が集まる場になるのも夢ではないじゃろなぁ」
自慢の髭を撫でながら、クルードは嬉しそうに笑いかける。
「はい。そうなってくれると、私も本当に嬉しいです。」
まだ少し濡れた手で枯れた木を撫でながら、そうなる事を願う咲耶だった。




