咲耶とホワイト記録簿4
「はぁ〜。やっぱり酒は旨い奴に限るな。で、呑んでみた感想は?」
カンザールは一口酒を含んだ後、目を閉じたまま微動だにしない。いや、酒の美味さに浸っているのがホワイトには分かっていた。
「これはーーこの土地で作られた、いや、人の手では作り得ない代物。だが、エルフや精霊界でも作り出せるだろうか……」
自分の世界に篭るカンザールに、苦笑を禁じ得ないホワイト。この世界の流通する全ての物が、地球より数倍劣る事をいち早く見抜いたホワイトの勝利である。
「どうだ、美味さが格段に違うだろ?」
「ええ。初めての美味しさに思考が止まってしまいました。はぁ〜、身体が溶けてしまいそうな美味しさです。これは何処に行けば手に入りますか?」
色々呑み慣れたバーのマスターでも、ウィスキーの美味さにやられたようだ。
流石にこれ以上の情報は、やめるべきだと思い、ホワイトは話をすり替える。
「その話は、ここではまずいんじゃないか? 誰かにバレた時、アンタが呑む量が減るぞ。」
その光景を想像したらしい。カンザールは急いで人目につかない場所に瓶を隠す。
「この会話が出来ないのはとても残念です。」
「大丈夫さ、夜に向かう場所でなら、話の分かる奴もいるしな。」
後ろ髪を引かれるカンザールに、ホワイトはここにきた用件を話し出す。
「今日ここへ来たのは、夜のお誘いもあるが、この街の情報集めも兼ねてる。」
「情報と言われましても、どの様な話がお好みですかな? 例えば、冒険者ギルドの内情とか、この周辺の魔物が現れるポイントですとか。この街の商業の話ですとかー。色々ございますが、どの話をお聞きになりたいのです?」
グラスに残った酒を大事そうに味わいながら、ホワイトに尋ねる。
「とりあえず、この街の冒険者ギルドは機能してるのか?」
「あまり芳しくはありませんが、魔物狩りやダンジョン探索で得たドロップアイテムを買い取ったり、人の噂話を精査し危険度が高い場合は、冒険者を派遣し鎮圧させたりなどですかな。」
カンザールの話を聞く限り、この街の行政機関は沈黙。その代行をギルドが行なっているという所か。ならば、付け入る隙は今を逃すべきではない!と、ホワイトの別の一面が訴えている。
「やっぱり、冒険稼業より街再生に力を入れた方が無難だな。」
それだけでも情報を得られたのは幸運と思う事にした。
「話には聞いていたがらこの街はほんとに何もないんだな……」
「この街と言うより、この大陸が精気を失い。破滅へと転がり落ちていると言っても過言ではないでしょうな。竜の加護を失った時から、こうなる事は予測出来たのに、人の子らは己が可愛さにすぐさま逃げ出す有様。
取り残されたのは、欲とは無縁の故郷を捨てる事が出来ぬ者だけ。」
「ふぅ〜ん。何処にでも馬鹿は居るもんだな。だが、そんな馬鹿は嫌いじゃない。逆に手助けしたくなるのが、オレのリーダーだろうしな。」
ホワイトはグラスの酒を一気に飲み干すと、カンザールに礼を告げ、その場を一度離れることにした。仲間達と合流し、夜までにカンザールの事を話しておかなければならないからだ。
「そうだ、この街で放置された土地とかはないか?」
首だけを後ろに向け、カンザールに問いかける。
「土地と言うと、更地ですかな?」
「ああ。だれからも文句が出ない無価値の大地がいい。」
ホワイトの無茶な頼みに、カンザールは夜までには目星をつけておく事を確約した。
「なら、これは前金だ。」
そういって荷物から取り出して見せたのは、先程カンザールが隠した瓶と同じ物だ。
「さっきのと……」
「同じ奴だ。好きにしてイイぜ。」
それだけを告げると、今度こそ店の外に消えていった。
「やれやれ、こんなお宝を頂いてばかりでは、疾風のカンザールの名折れですな」
置き土産を手に取りながら、言わずもがな気合いが入るカンザールであった。




