咲耶とホワイト記録簿3
「カンザール! やっぱり店に出ていたんだね。」
薄暗い店内。黙々とグラスを磨いていた顔がロウハを捕らえる。
「おや、ロウハ。宿屋の方は大丈夫なのかい? もうそろそろ、冒険を終えた者たちが帰ってくる頃だろうに。」
日常会話を交わしながらも、グラスを拭くてを止めない所は流石だと、ホワイトは観察しながら、2人の会話を黙って後ろで聞いていた。
「宿屋の方は書き置きをしておいたから暫くは大丈夫だよ。それよりカンザール。アンタにお客を連れて来たんだよ、って……、そういえば、まだ名前も聞いてなかったね。」
まずはそこから尋ねるべきだろう?と、思ってても表情に一切表さないホワイトは、2人に自己紹介を始めた。
「オレはホワイト、冒険業をしながら旅先で得た珍しいものを売ったりしている。いわば行商人兼冒険者って所か。この街に着いたばかりで情報が集まる場所を聞いたら、ここに案内されたんだ。」
「口で話すより案内した方が早いしさ。それに、カンザールにもアンタから譲って貰ったー林檎ーって果実を食べさせてやりたかったんだよ。いつもカンザールには、この街の樹々を気にかけてもらっているから、恩返しがわりさ。」
そういって手荷物の中から、赤い果実をカンザールのいるカウンターに置こうとするロウハの手をホワイトが止めた。
「これは、ロウハさんに譲った物です。マスターにはオレから渡すよ。それよりも、果実よりこちらの方が良いか?」
ホワイトは自分の荷物の中から、林檎を少しと瓶に入っている液体をテーブルに置く。
「これは初めて目にするものだが、食べ物なのかな?」
赤い果実を手に取り、匂い、感触、形を観察する。
「この果実さ、ヤラの実に負けないくらい甘くて美味いんだよ。口にしたら、幾らエルフのアンタでもびっくりするだろうよ。」
ニンマリ顔のロウハは珍しいと、思いながらも、人前で食事をする姿を見せる事を嫌うカンザール。それよりも、もう一つ置かれた瓶に興味が惹かれる。
琥珀色の透き通る様な色合い。形は何処にでもありそうな瓶だが、普通ならイラストなり商品名などが描かれているだろうに、冒険者の若者。ホワイトが置いた物は、カンザールの想像力を大いに刺激した。
「この瓶は、酒類と思っても良いのですかな?」
「ああ。まだ、何処にも卸していない初物だ。これから色々世話になりそうだから、オレからの挨拶がわりとして貰ってくれ。それとさ、後……」
ロウハに聞き取れない程の小声で、一言二言呟くと、この場所まで案内してくれたロウハに礼を告げた。
「忙しい時間帯に案内させて悪かったな。礼ってわけじゃないが、さっき話してた苗木の件。仲間のドワーフにたのんどくから、明日あたりには届けられると思う。」
「ほんとかい? 後で駄目だったとか言わないだろうね?」
ぬか喜びは誰でも嫌がるものだ。念を押すロウハにホワイトは快諾した。
「大丈夫だ。商売事に関しては、嘘偽りはしないのがオレ流だからな!」
それを聞いて安心したロウハは、今度は宿屋が気になり出したのだろう。挨拶もそこそこに酒場をあとにした。
「じゃあ、明日楽しみに待ってるからね!」
背中越しに返ってくる声に応えて、ホワイトは本題の相手に向き合う。
「ホワイトさんって呼んでも?」
「ああ。だが、アンタならもう一つの名前で呼ばれても良いかもしれない。まあ、夜の話し合いで決まるけどな。さっきも言ったが、今夜店を早仕舞いして付き合って欲しい場所がある。来てくれるか?」
カンザールは一度片目を閉じ考えこむ。
「それはこの頂き物次第ですかなー」
「フン。なら、了承ってことだな!」
自信満々のホワイト。そんな相手の顔を見つめながら、2人分のグラスを棚らか取り出してテーブルに置く。
「では、頂かせてもらいますーー」
「どうぞ。腰抜かすんじゃないぞ?」
ホワイトはそう告げると、自分も地球から持参した酒に口をつける。咲耶が知る『ウィスキー』と言う名の酒をーー




