咲耶とホワイト記録簿2
「はぁ〜。こんな甘い果物を食べたのはヤラの実以来だね。この果実は、樹に実るって話だったが、その樹はこんな痩せた大地にでも根をはってくれるかい?」
ロウハは林檎の果実がとても気に入ったのだろう。自分が宿屋を営むって事を別にしても、林檎の木を育ててみたいのだろう。
ホワイトは、そこまで予期していたのか、少し口の端を上げ満足そうな表情をすると、自分は無理だが、最初に言った様に仲間ならば可能だと説明する。
「だがな、するかしないかは、仲間の考え次第って思っててくれ。それでもよければ、間に入って交渉くらいしてやるさ」
どうする? と、ホワイトが無言で返答を待っていると、それでもいいから苗木を分けて欲しいと訴えてきた。それ程までにこの街は恵みをらもたらす樹を喉から手が出るほど求めていると言う事だ。
(これは咲耶に、いい手土産ができたな。)
ホワイトはロウハに仮約束を交わし、この街の情報が集まる場所を聞いてみた。
「それだったら、アンタと同じ冒険者が集まる酒場が1番だろうさ。ちょうど良い時間になってるじゃないか。あの酒場のマスターが、店に来てる頃だね。」
店の外の暮れ具合でわかるのだろう。今ならマスターが店に顔を出して準備していると知っているロウハは、林檎を貰ったお礼にと、酒場まで案内を買って出てくれた。
「本音で言えば嬉しい限りだが、宿屋の方はいいのか? 客が帰ってくる頃じゃないのか?」
「その事なら問題ないよ。どうせこの宿屋で食事をとる客なんて、数人しかいないんだよ。それも、夜遅くにしか戻ってこない客ばかりさ。」
だから遠慮なんていらないんだよ。と、話をまとめると、ホワイトの腕を掴んで宿の外に出る。
ホワイトが1人この街に降り立った時にも感じたが、閑散としていて街で見かけるのも冒険者の姿ばかりだ。
この近くにダンジョンがあるのか、街の外で魔物を仕留めたのか、少し大きな布袋を肩に担いだ姿を見かけるくらいだ。
街の様子を観察しながら、ロウハに引きずられるように連れて来られた場所は、宿屋から2軒隣にある酒場ー命の雫ーであった。
「カンザール。カンザールはいるかい?」
「その金切り声はロウハだな? まだ酒場に灯りを入れてもいないこんな早い時間に、どんな用件だね?」
ロウハからカンザールと呼ばれて姿を見せたのは、隻眼の年老いたエルフの老人であった。




