咲耶と別行動のホワイト記録簿
クルクリには現時点で営業している場所が数カ所しかない。
ロウハが営む宿屋ー静かな砂時計ー
老夫婦が店主の日用雑貨屋ー木の小箱ー
元冒険者のマスターがいるバーのー命の雫ー
そして、冒険者の管理、依頼等の斡旋所であるー冒険者ギルドー
この4箇所が人の出入りがある場所である。
街は住む場所がほぼないに等しく、冒険者たちは、ロウハの宿屋に寝泊まりし、冒険者ギルドで依頼を受けては、日々の生活資金を稼ぐ毎日だった。
そんな街に一軒しかないロウハの宿屋に1人の冒険者が姿を現す。使い古した皮の防具を身につけて、白い髪と腰に長剣をさす青年が、ロウハを訪ねて来た。
「アンタがロウハか?」
「ん。ロウハはアタシだが、お前さんは誰だい?」
昼間の女性とドワーフの連れに引き続き、また風変わりな冒険者が来たとロウハは思った。
装備は使い古しのようにみえるが、戦闘などで受けた傷などない綺麗な体躯に、キチッと刈りそろえられた白い髪。大きな街に行けば、役者で生計を立てれそうな優男に見えた。
「いや、昼間に風変わりな2人組がこの場所に来なかったか?」
「2人組っていうと、ドワーフに守られた嬢ちゃんの事かい? その2人ならいつの間にか居なくなってたよ。内の庭の様子を見てくれたおかげで、元気のなかった樹が実をつけたんだ。お礼ぐらい言わせてくれても良かったろうにね……」
ロウハは、不思議な2人組の旅人の事を、まだ会ったばかりの冒険者に聞かせてやった。
少し目を離しただけの短い時間に、ドワーフが田畑を元気にしてくれた事。そのおかげで、しばらく間はこの宿屋を使ってくれる冒険者達に、腹一杯の大地の恵みを振る舞ってやれる事。もう一度あえるなら、自分が力になりたい事をーー
普段なら見ず知らずの冒険者に心を開くロウハではない。初めて会ったばかりの青年冒険者の巧みな話術で、会話を誘導されていたのだ。
「アンタ、聞き上手じゃないか。客相手をしているアタシから、こんなに苦もなく情報を引き出せるなんて……。もしかしてアンタ、冒険者に見せかけた商売人かい?」
白い髪の冒険者は、内心で苦笑いしていた。勘が良い人に当たってしまったようだなと。
「んー。商いほどではないが、異国の酒や食べ物なら少し収納してるな。オレの仲間が、変わった能力者でな。これ以上は企業秘密だがな。」
そう言うとロウハを訪ねて来た青年は、荷物袋の中から、真っ赤な果実を取り出してロウハに手渡した。
「これは?」
青年も自分の分を袋から取り出し、服の端で果実を拭き取ると、思いっきり実にかじり付いた。
ロウハも青年の真似をしてかじり付いてみた。一口かじるたびにシャリシャリと不思議な食感がする。と思えば、爽やかなら甘さが口中に広がり勢いよく全部食べてしまった。
「これは……、ほんと素晴らしい食べ物だね。生まれて初めて食べたよ!」
「この果実はな、ー林檎ーっていって、樹になるんだよ。気に入ってもらえて良かった。まだまだ沢山あるから、遠慮なく食べなよ。」
青年はそうロウハに言うと、自分達の前にー林檎ーを置いた。
そう、この青年こそ、咲耶達と別行動を開始した狐族のカザミこと、ホワイトであった。




