青年と逃れない咲耶
月河咲耶 年齢15歳。
職業 学生。
家族構成 両親共に他界し、その他親類なし。
現在は親の遺産である洋館で、愛猫と一人暮らし。
青年はスーツの内ポケットから手帳を取り出し、スラスラと読み上げる。
咲耶達は今、先程までいた場所から少し離れた路地にいた。
青年の問いかけは聞こえていたが、それよりも公園の様子が気になり気がそぞろだ。
誰か公園の管理者が、役所の人を呼んだのだろう。人集りが出来ている。
「あの〜 そろそろ私の存在を思い出して欲しいのですが。」
青年は咲耶の顔に近づいて、視線を自分に向けさせた。
自分の容姿に無頓着な青年は、この場所に退避する間も老若男女の熱い視線を集めていた。あまりに悪目立ちするから隠れたものの公園と同様に騒がしい。
青年の顔を両手で押さえ、2、3歩距離を置く。
「今日は厄日ね。 休みだから買い出しに出かけただけなのに、この変な人に絡まれてからおかしな事ばかり起こってる…」
こめかみを押さえながら、頭の痛みを逃がす。今度こそ青年から逃げようと試みるが、片手を掴まれて逃げれない。
「逃られませんよ、ここで逃してしまったら、ますます予定がずれ込んでしまう。あまり時間が有りませんから、これから貴方のご自宅にお邪魔させてもらいますね」
自分の意見ばかり押し付ける。咲耶の嫌いな自己中心的なタイプだ。
咲耶は相手の顔を睨み、掴まれていない手から荷物を静かに離しながら青年と真っ向から向き合う。
「だからー一勝手に話しを決めないで!」
これまでの経緯でフラストレーションが押さえきれずに思わず手が出てしまう。
ーパンー
乾いた音を立てて青年の頬を打つ。だが、痛みを感じないのか平然としている。
ただ、先程までの人の良さそうな笑顔は瞬時に消えた。
「まあ、気持ちは理解できますが、この身体は借り物ですので傷を付けないで頂けるとたすかります」
頬を摩り咲耶に冷たい視線をむける。少し苛立っているのは、手を挙げられたからか時間がないからなのか。
いや、人を見下す冷たい視線が素ではないかと、咲耶は感じた。
青年はこれ以降は口をつぐみ、踵で地面を数回軽く蹴る。
黒き光が地面に現れ、2人を中心に黒き線が円を描く。
円が完成しても、青年はむすっとしたままだ。
気不味い空気にお互い顔を逸らしていたが、青年がポケットから小瓶を取り出し、中身の液体を足元へこぼす。
「約束の時間が差し迫っている為、これから移動します。何が起こっても騒がないで下さいね」
一方的に話を進める相手に、咲耶は半ば諦めた表情で力無く呟く。
「騒がないから… 勝手にして下さい」
だから話を、この現実を早く終わらせてほしいと咲耶は切に思うのだった。
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