咲耶と宿屋の女主人
予定より遅くなりました。
「おや、こんな寂れた街にくる旅人なんて、久しぶりだね。街の外は、魔物や魔族たちが我が物顔で暴れてるなんて聞くが、大丈夫だったかい?」
街の入り口付近で宿屋をしている女性に、咲耶ははなしかけられた。
「はい。ご親切にありがとうございます。連れのドワーフの方が、終始守ってくれたので、怪我なくこの街にたどり着く事が出来ました。」
咲耶に褒められたクルードは、照れくさいのかしかめっ面になる。
「おやおや。このご時世、ドワーフ族などエルフ族と共に滅んだと思ってたんだかね。また、奇特なドワーフもいたもんさね。」
かがみ込みクルードの顔を覗き込む女性に、クルードはそっぽを向く。
「フン」
女性はこれ以上からかっても、クルードから面白いことは引き出せないと思ったのか、狙いを咲耶に変えてきた。
「ところでお嬢ちゃん。滅びと沈黙の街『クルクリ』に、何の用事があってやってきたんだい?」
「はい。物資の補給と、後、お金が稼げる仕事はないかと思って立ち寄らせてもらいました。」
「そうかい。だが、物資補給は難しいね。何せご覧の有り様だからさ。」
みてご覧と、自分の背後を見るように促す。
街並みは寂れ、所々住宅の壁に穴が空き中が伺える。
住人たちには覇気がなく、地面に座り込む者や寝ている者たちも見受けられる。
「この街並みは……」
「お嬢ちゃんは、この街の事を知らないのかい?」
女性の声に咲耶は頷いた。
「珍しい人だね。ていうか、種族は人間かい?」
「はい。人間の咲耶といいます。こちらは、私の親代わりのドワーフの御仁。それよりも、この街の事を詳しく聴かせてください。」
「あんまり気持ちのいい話しじゃないよ?いいのかい。」
「はい。旅をする上に必要なのは情報です。これからの方針を決める為にも、お話くださると助かります。」
女性は一瞬考えると、咲耶達を自分の自宅兼宿屋に招き入れた。
宿屋の中は客はおらず、とりあえず咲耶達を空いている椅子に座らせ、自分は茶の用意をする。
「お茶しかないけど、我慢しておくれよ。」
「お茶を頂くだけでも、助かります。少し喉が乾いていたので。」
前に出されたお茶をいただきながら、女性が話し出すのを黙ってまつ。
「さて、どこから話せばいいかねぇ……」
女性は名をロウハといい、この街で何代も続く宿屋を営んできた。
「10年ほど前の事さ、この街並みがこんな有り様になったのは!」
ロウハは苦虫を噛み潰したような表情で語りだした。




