咲耶と狐の子
その部屋は、咲耶邸の1室である。それは変わらない事実だが、現実はチグハグである。
日の光が柔らかく部屋一面を照らし出すようにあり、風が心地よく駆け抜けてゆく。
何処か遠くの方から、牛らしき鳴き声が響き、近くで野菜や果物が栽培されている。
何故、咲耶邸に不思議空間が広がっているのか? その原因はーー
「おやおや、クロガネさま。朝からどないしましてん? 冷蔵庫の補充ですん?」
「そうです。連日の大量消費のせいで、冷蔵庫の中身は空っぽですよ。」
「あ……、それは気ぃつきまへんでしたわ。後で兄弟達に補充させておきますわ。それで本日は、どの様な御用向きで?」
つぶらな瞳でクロガネをジッと見つめる相手は、幼稚園児くらいの大きさの狐族の子供であった。
「いや、朝食を作りたいのだけど、初心者でも失敗しないものはどんなものだろうか?」
「え? クロガネさまがお作りになられますん?」
瞳をパチパチとさせ驚く狐の子に、クロガネは頷く。
「ホンマですか……。全くの素人はんが、朝食をねぇ〜。まあ、咲耶様をお助けしたいってところですか。なら、簡単で難しくない料理を伝授しますわ。まずは、材料集めにまいりますわ。ウチのあとに付いてきてぇ〜な?」
「分かりました。まずは何処に向かうのですか?」
「そうやなぁ、牛乳を貰いに牛の群れをさがしまひょう!」
もう言わずともお分かりだろうが、小型版狐の子は、カザミの関係者だ。
カザミは地球から離れる前に、ありとあらゆる物をこの場所に集めたのだ。必要と思う物は全て集めている。
畜産・農場・織物等、自分の手で出来るものはもちろん、バターやパン等も必要ならば狐の子が焼いてくれる。
「それで、私にも出来る料理は何にしたのですか?」
「えっとな、フレンチトーストって奴にしようと思うんや。」
それならば自分でも作れるそうだと、自分に喝を入れるクロガネであった。




