咲耶とドゥーロ
「じゃあ、咲耶から了承を得た事だし、移動の準備に取り掛かりましょう〜。ドゥーロ君
こちらへ来てご挨拶なさいなぁ」
神ガイアが、やっと本題に移れるわ〜という呟きが聞こえたのか、少年ドゥーロがガイアの横にやってくる。
「咲耶、この子はドゥーロ。貴方がこれから移り住む異世界の住人。いわばナビゲーター的存在なの〜。姿はこんな風だけど、ドライアドなのよ〜」
「ドライアド?」
「そう、樹の妖精。私や咲耶が住んでいる世界にも居るんだけど、この世界のドライアドは女の妖精。で、このドゥーロは珍しい亜種、男の子なのよ。だから今回の役目に選ばれたらしいのよ〜」
ガイアが、ドゥーロの頭をクシャクシャにかき回す。まあ、神のちょっかいを忌々しく感じながらも、大人しく甘んじている。
「とりあえず〜、自己紹介しなさいな」
「はい。深き新緑の星、トリフェーンの神に仕える、ドゥーロといいます。
これまでの無礼な振る舞い、お許しください」
ドゥーロは咲耶に深々と頭を下げて謝罪した。
「けど、転移の話を受けてくれて本当に助かったよ! 断られたら、どうしようってそればっかり考えてた…」
なぁーって、自分の肩に止まっている烏に声を掛けている。
まあ、咲耶以外の適合者がいないとも言っていたのだから、余程ドゥーロは思い詰めていたのだろう。
烏も、ウンウンと相槌を打つように頷いてみせる。そんな仕草が可愛らしい。
「おやおや〜、先程まで険悪ムードだったみたいなのに、仲直りしたようですねぇ。」
「ああっ。コイツは烏のハヤテっていうんだそうです」
ドゥーロが愚痴とも独り言とも取れる呟きを烏にぶつけていたら、黒い羽で器用に頭を撫でて慰めてくれたようだ。少し眼が赤くなっている。
「そうですか〜。そのハヤテも連れて行くのですか?」
「はい。オレの相棒になってくれるみたいです」
ガイアは少しの間烏を静かに見つめ、同行する許可を出した。
「まあ良いでしょ。さて、本当に時間が差し迫ってきたようですねぇ〜。準備を始めましょう」
ガイアはそう言うと、手を差し伸べたのだった。