咲耶とカザミの悪巧み
黒曜石の刃は、石の特性を活かして鋭く深く傷を生み出す。黒曜石はガラス質で出来ている為、古代の地球ではナイフや矢尻などに利用された歴史をもつ。石本体は割れ易いが、その割れた鋭い断面が烏の羽の様に薄く艶やかな色味をだす。
「これは私と相性の良い石ですね。私の指示通りに言うことを聞いてくれている!」
ーーガァァーー
黒曜石の羽がフードの上から突き刺さる。男が無雑作に刺さった羽を掴もうするが、力の加減が分からず黒曜石を粉々に握りつぶしてしまう。握り締めた手の平は、ガラスの欠片が入り込んで血を流す。
「チッ。小賢しい真似をしやがる。この程度でオレ様がやられると思ったら大間違いだー
ぜ?」
薄気味悪く笑みを浮かべると、フードの男は全身に闇を纏わり付かせ力を込める。
皮膚表面に血管が浮き上がり、身体中の傷口から血が溢れ出す。その流れ落ちる血と共に、黒曜石の欠片が体外に押し出される。
「あらら〜、口だけの敵はんと思うたら、中々やりますわなぁ〜。まあ、ウチらもこれくらいの技でアンさんが倒れるとは思うてまへんわ!」
カザミはクロガネが攻撃を仕掛けている最中に、妖力を練り上げていた。
この世界の魔法とは異なる「妖力」の為か、フードの男はカザミの行動にノーマークだった。
「アンさんがどれくらいの力を持った魔族かわからへんから、取り敢えずウチから大盤振る舞いさせてもらいます〜
ーー内に眠りし九尾の力よ、神炎の息吹をウチの前に形と為せ。『神炎滅殺波』ーー」
黄金の炎がカザミの両手に生まれる。炎は朧げに九つの尾をもつ狐のように見える。
炎はフードの男の足元に飛び掛かる。九つの炎の尾が男の全身を炎で包み込み波打つ。
炎の尾に閉じこめられた状態となりながら、逃げだそうと試みる。だが、魔法でも魔力でもない初めての力に苦戦する。
「何だよ、この炎は……。オレ様の魔力が相殺されやがる。たかが獣人二匹がオレ様に歯向かうだけでも苛つくっていうのに、狩らずに撤退とかあり得なすぎ……だ……。」
フードの男の意思がどれだけ強がりを見せようと、カザミの炎から逃がれられなかった。
黄金の光が洞窟内を焼き尽くす。光の光量で目を開けていられない程だ。
カザミはいつの間にか用意していたサングラスを身につけて、光量から目を守っていた。
さすがのカザミ自身も、洞窟内という密閉空間で放たれる光には、目を焼かれる可能性があったのだ。そしてこの場所は、黒曜石が取れる場所なのである。ガラス質の黒曜石が光を乱反射させ、何時も数倍近い力を放っていたのだ。
光の炎が収まる頃には、洞窟にクロガネとカザミの2人だけが残されていた。
フードの男が居た場所には、血痕らしき黒い浸みのような跡が残るばかりだ。
「なあクロガネはん。敵はんは燃え尽きたと思います?」
「いいえ。ただ、深傷を与える事は出来たと思いますがね」
黒き羽で自身を守っていたクロガネが、防御を解きながらカザミに近づく。
「それにしても、『神炎滅殺波』はやり過ぎでは? こっちまで燃え尽きてしまうかと思ったではありませんか!」
「堪忍や、クロガネはん。ウチらの邪魔する敵さんが悪いんや。ほら、まだまだ黒曜石をぎょうさん取らないかんのやから! お邪魔虫は退場してもろうのが1番や。呆けてないで、発掘採掘ですわ〜」
ウキウキと何事もなかった様にツルハシを振るうカザミに、特大の溜息を溢すクロガネであった。




