咲耶と竜の意外な一面
『にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、鶏肉。後は市販のルーを用意。よし、やるぞー!』
キッチンには気合い十分な竜の少年と、宝石大辞典を片手に、意識を集中する咲耶の姿があった。
最初は竜に夕食作りを任せる事に不安がっていた咲耶だが、ゆっくりと丁寧に下準備をする姿を見て、取り敢えず任せてみる事にした。
各材料を一口大に切り分け、咲耶の家に一つしかない深鍋をコンロにのせる。火を弱火にして、バターを溶かした後、鶏肉と薄くスライスした玉ねぎを入れ木べらで炒めてゆく。
その間にも、作業を並行してパン生地作りやご飯を炊く準備をしている。
あまりの手際の良さに、具現化の練習を止め様子を覗き込む咲耶。
「ねえ、初めての料理作りの筈なのに、どうしてそんなに手際がいいの?」
『そんなのは簡単だよ。だって、ずーっと咲耶の行動を見ていたから、なんとなく覚えたんだよ。料理ってさ、決まった動作を決められた順番をまもりさえすれば、美味しく出来るはずだもんね〜』
咲耶の問いに答えている間さえ、手を動かす竜の少年に感心してしまう咲耶。使い慣れた自分はいざ知らず、初めての料理作りで完璧に大人数の料理を黙々と作る姿は、小さな料理人のようだ。
竜の少年が自分の代わりに頑張ってくれているのに、休憩している場合では無いと思い直した咲耶は、大辞典の中から作りたい石を探す。5種類の内、1つ目はこれから大量に必要になるアクアマリンにした。
これは最近目にしていた事もあり、すんなりとイメージが出来た。最初は爪程の大きさばかりだったが、途中から少しずつ大きさを変えていくイメージを心がけてみた。
最初は問題なく具現化出来たのだが、拳くらいの大きさになると、頭の奥がクラクラし始め指先が痺れ始める。この症状は急激に魔力を消費した場合に起こる現象で、魔力操作に慣れていない者が陥りやすい。
咲耶は多少の異変を無視し、体外から魔力を取り込む事にだけ意識を傾ける。
自分の中の魔力と共に創りたい石をより鮮明に、石の意味を理解して具現化させてゆく。
そして気がついた時には、1種類目のアクアマリンが机の上に出来上がっていた。
出来具合を確認しながら数を数えてみると、100個程になっていた。気が付かずに多く創り過ぎたようだ。さて、次の石を何にしょうかと本に目をやると、視界に湯気が昇るカップとクッキーが数枚のった小皿が目に入った。どうやら竜の少年が、料理の合間に気を利かせて置いてくれたらしい。
ちょっとした優しさに心を癒された咲耶は、竜に与えられたノルマをこなす為次の石を探し始めた。




