咲耶と竜と少年
竜から毎日のノルマとして、1つの石に対し50個。それを5種類の系5×50。即ち250個の具現化の練習を言い渡されてしまった。
それも、具現化する際には石の大きさを手の平に収まる位の形でという注文付きだ。
だが、そればかりに気を取られると、クロガネ達の食事の準備が出来なくなってしまう。
『もう〜、そんな事は気にしなくてもいいんだよ。咲耶はみんなの食事係じゃないんだから、今は魔力操作を早く出来るようにならなくっちゃ駄目なの!』
竜に言い諭される咲耶だったが、誰かの為に作る食事の時間が嬉しいのも事実。石を創り出すから、食事の準備もさせて欲しいと伝えてみた。だがー
『それにご飯位なら、僕が代わりに準備してあげるよ。って、なんて顔してるの。咲耶?
もしかして、竜のこの球体だから人間の様な行動が出来ないとでも思ったの?』
「ええっ。だって貴方はまだ生まれてから少ししか経っていないし、竜だからって何でも出来るって事になれば、そもそも私がこの世界に来る必要はなかった筈だもの」
正論を言われて拗ねるかと思われたが、『チチチッ』と、人っぽい口調で否定すると、咲耶から少し離れた場所に着地する。
『今からちょっと面白い事を見せてあげるから、驚いちゃダメだよ?』
竜はそう言ってから、球体である仮の体を震わせる。次の瞬間球体は、小学生の男の子に変化を遂げていたーー
「貴方って、人間の姿になれたの?」
咲耶の目の前には、銀糸の髪を後ろに1つに束ね少し勝気な表情の男の子が静かに立っていた。身長は咲耶より少し低く、声はというと……
『よし、これなら何でも出来るぞ!』
声は何時も球体から聞こえて来る声そのままであった。
『咲耶ーー咲耶さま?』
目の前にやって来た銀糸の少年に、咲耶は数度瞬きをして凝視する。自分の目の錯覚かと思ったが、やはり先程までの球体が少年に姿を変えたようだ。
人間とは思えない綺麗な容姿は、地球にいた俳優以上の気品を感じさせる。まあ、咲耶自身は俳優などとあった事はないのだか、人にはないオーラの様なものを放っていた。
『ほらほら、僕の人間体が綺麗だからって、見惚れてちゃ駄目だよ? 僕が今から咲耶様の代わりに夕食を作るから、咲耶様は僕の見える範囲で魔法創作の練習をしてよね。』
「うん……って、君は料理も出来るの?」
何気なく頷いた咲耶だが、聞き逃せない言葉が混ざっていたので思わず尋ねる。
『それは咲耶様の一部を貰って生まれてきたんだもん。咲耶様の見よう見まねで料理くらいは作れるよ。でも、簡単なものしか作れる自信がないからなぁーー』
そう言ってから、竜の少年は冷蔵庫の中身を覗き込む。中には鶏肉と野菜が数種類入っていた。これなら「あれ」が作れると、材料を冷蔵庫から取り出して流し台の場所に持って行く。だが、ほんの少しだけ竜の身長が足りない様で作業しづらいようだ。
咲耶は部屋の片隅に置いてある小さな踏み台をもってきてやりながら、竜が今から作る料理が気になり声を掛ける。
「で、初めての料理は何を作るつもりなの?」
『ん? どうせみんな疲れて帰ってくる筈だから、チキンカレーにしようと思うんだ!
まあ、若干一名は別メニューになるけどさ。ご飯とパンを用意しとけば問題児も大人しくしてるよ。』
少年の姿になっても、辛口の口調は相変わらずのようだ。
取り敢えず夕食の件は少年に任せてみる事にし、咲耶自身は与えられたノルマをこなす事に集中する。
「ねえ、火の扱いだけは気をつけてね?」
『大丈夫だよ。竜の身体はちょっとのやけどや怪我は受け付けないから大丈夫。それよりも、咲耶も頑張って具現化しないと、ご飯が食べれなくなるよ?』
何気なく発破を掛ける少年に、少し心配しながら、与えられた作業に向き合う咲耶であった。




