咲耶と竜と勉強会
『ねえねえ咲耶。片付けなんて後でいいから、早く魔力の訓練を始めようよ〜。』
「駄目だよ。あと少しで食器を全部洗い終わるから、大人しく待ってて?」
先程から自分の周りを戯れるようにまとわりつく竜に断りを入れつつ、大量の食器の泡を洗い流してゆく。
「早くしないと、出かけてるメンバーが帰って来ちゃうよ?』
「うん、ほら終わったよ。お待たせ!」
濡れた手をタオルで拭くと、我慢強く待っててくれた竜に話しかけた。
『じゃあさ、お待ちかねの創作魔法を教えていくよ〜』
咲耶達は場所を居間へと移り、竜による魔法のレッスンが始まろうとしていた。
この家の中には、咲耶と竜と猫のゆきしかいない。自分らを邪魔する者がいない為か、竜の口調は楽しげである。
「じゃあ、まずは創作魔法で出来る事を教えてくれる?」
『いいよ。えーと、どれが良いかな〜』
竜は本棚にふわふわと向かうと、絵本の所で止まる。
『咲耶、この本を取ってくれる? 緑の背表紙のやつ』
「これでいい?」
『うん。それの中身は、君の父親が暮らしていた国の童話集だろ。妖精や花の精霊が擬人化してある』
竜の言うように、子供向けに描かれたその本には、小さな小人や花から生まれた妖精が、人に近い姿で描かれていた。
『じゃあさ、今回はこの中から、コボルトって描いてある小さな小人を具現化してみようよ?』
「具現化?」
咲耶の戸惑いの混ざる言葉に、竜は実演して見せることにした。
『つまり、こういう事だよ!』
竜が覗き込む童話集のページには、石の鉱脈をトンカチで掘り出す絵が描いてある。
その石の上に漂いながら、竜は光を点滅させる。
『それじゃあ、いくよ? えい!』
次の瞬間には、咲耶の手の平の上に、童話集に描かれていた石と同じ物が収まっていた。
「これがー創作魔法?」
ずっしりと重たい感覚をうけながら、目の前で起こった現象に釘付けになる咲耶であった。




