青年と咲耶
「あの〜」
公園のベンチで読書をしていた月河咲耶は、自分に問い掛けた声の方へ振り返る。
「はい。何かご用ですか?」
顔を上げるとそこには、上から下まで黒で統一したスーツを見に纏った青年がいた。
腰まである髪を一つに束ね、胸を張って様子を伺う姿は何処かのモデルかと思う程の美しさを醸し出していた。
「突然お声を掛けて申し訳ありません。
唐突ですが、魔法とか異世界とかの存在を信じますか?」
「はい?」
咲耶は一瞬目を見開き、相手の顔を凝視する。
心の中では変人?と思いながら、首をかしげる。
「私は、空想上の物語は信じない現実主義です。
宗教を信仰している人達には悪気はありませんが、神様とかファンタジーとかないって思ってます。」
「ほう。それは好都合です」
咲耶の言葉を聴いた青年は、ニッコリと笑いかける。
街中で微笑みを向けられたら、周りの女性達を虜にしてしまう甘い笑顔だ。
「好都合とはどういう意味でしょうか? というか、用件がそれだけならば、失礼しますね。」
これ以上この場で読書は無理そうだと見切りをつけた咲耶は、本に栞を差し込み鞄の中にもどした。
「ちょっと待って下さい。本題はここからなんです。」
青年は咲耶の前に立ち塞がり、話だけでも聞いて欲しいと懇願する。
咲耶は全く気乗りしなかったが、早く帰りたかったので話を促す。
「それで、聞いて欲しい話と言うのはなんですか?」
咲耶が促すと、青年は咲耶の手を握りしめとんでもない事を口にした。
『異世界の、神の住んでいる場所に引っ越ししてくれませんか?』と…