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第13話 力を持つ男

「――もちろんお前が、ワシを知らんのも無理はない。お前の父、真司は大学を出るとすぐに、家を飛び出してしまったからな……」


 少し寂し気な表情を浮かべた老人。

 親戚の話を父に尋ねたことは何度かあったが、祖父のことは教えてくれなかった。どうやら、複雑な事情が絡んでいたらしい。


「家を飛び出した?」

「そうだ。ワシの後継者になるのを拒んでな。それ以来の絶縁状態だった」

「後継者なら、伯父さんでも良かったんじゃ……」

「兄の真一ではダメだったのだよ。真司でなければダメだったのだ」


 正直言えば、父の死や伯父のことといった核心を、すぐにでも聞きたい。

 だが父の昔話も興味深かったので、そのまま話に付き合う。

 おそらく、車が向かっているのは東京。となれば、当分は夜のドライブが続くのだろうから……。


「どうしてダメだったんです? 何か問題でも?」

「お前は、目を合わせた人物の記憶が見えるな?」


 今さらとぼけたところで、無意味なのは明らか。素直にうなずいてみせる。

 それを確認すると、祖父は話を続けた。


「その力は、お前だけのものではない。お前の父も、そしてその父であるワシにもある。さらにワシの父もだ。つまりこの力は、脈々と受け継がれてきたものだ」

「薄々は気付いてましたよ。親父にも、この能力があったんじゃないかってね」

「ワシらは代々この力を使って、裏の社会で暗躍してきた。そして、今の地位を築き上げたのだ。だからこの力を持たない兄の真一は、後継者にはなり得ない」


 確かにこれだけの力だ。天下を取るというのは大げさだとしても、使い方次第で権力は手に入れられるだろう。

 人の弱みは簡単に握れるし、嘘だって見抜ける。そして、裏切りだって見破れるのだから盤石。

 実際に俺自身が、気楽に人並み以上の生活を送っているのが何よりの証拠。


「伯父さんじゃダメだったのはわかりました。じゃあ、どうして親父は後継者になるのを拒んで、家を飛び出したんです?」

「真司はこの力を、正義のために使いたいと言い出しおった。それで真司は家を飛び出し、新聞記者という道に進んだのだ」


 正義感の強かった父らしい行動だ。

 『悪がそこにあるのに、黙って見過ごすのは同じ悪事だ』と言っていた父。その目には、具体的な悪が見えていたというわけか。


「そんな親父が、なんで殺されなければならなかったんです?」

「真司は、ワシの組織の悪事を暴いて回っておった。この間お前に懲らしめられた小池谷も、その生贄になった一人だ。そしてある日、組織を守ろうとした兄の真一……つまりお前の伯父と対立してな、さっきお前に見せた結末を招いたというわけだ」

「さっきのは、伯父さんの記憶だったということですか」

「そうだ。真一が懺悔した際にワシが覗き見た、あいつの記憶の一部始終だよ」


 さっき祖父が俺に見せた映像は、やはり伯父の記憶だったというわけか。

 俺は一人っ子なので兄弟の心理はわからないが、あまりにむごすぎる結末だ。


「弟の命を奪ってまで守るほど、大事な組織なんですか?」

「ワシだって、そんなものを望むはずがない。だが真一の告白によれば、弟のくせに自分が得られなかった能力を持った上に、組織に属さないばかりか反発するのが許せなかったそうだ……」

「それにしても、あの程度の自殺の偽装でよく警察の目が欺けましたね」

「言っただろう、裏の社会で暗躍してきたと。もちろん後継者である真司を殺したのは許せない事実だが、組織を守ろうとした真一もまた我が息子。警察に圧力をかけて、事件をもみ消したのだよ。親バカと呼んでくれても構わない」


 語りながら、力なく肩を落とす祖父。

 だがその親バカのせいで、ひどい目に遭ったのは俺たちの一家だ。父は不名誉にも自殺に仕立て上げられ、母はついこの間まで眠り続けていた。

 俺だって父が他殺と断定されていれば、違った人生をたどっていたかもしれない。


「それが、なんで今頃になって俺の前に現れたんです?」

「お前を見守っていたこの男から、報告を受けたからだよ。『父親の死の真相を知りたがっている』とな」


 助手席に座る男が、後部座席の俺に向かってご丁寧に頭を下げる。

 『見守り』などという言葉を使ったが、要するに俺は監視されていたというわけか。さすがプロ、ちっとも気付かなかった。


「そんな伯父さんが、消息を絶ったのはどうしてですか?」

「それはワシにもわからん。組織でも行方を追っているところだ。だが大方、お前が真実に近づきつつあるのを察して、姿をくらませたとか……ではないのかね」


 確かに小池谷の記憶の中に、伯父の姿を見た。

 そして、連絡が取れなくなったのもその辺りから。

 伯父も組織の一員だったとすれば、監視されていた俺の行動も筒抜けだったのだろうから、祖父の言葉にも一理ある。


「親父を殺した犯人に、ずっと面倒を見てもらってたわけですか……、俺は」

「父を奪い、母を眠らせ続けている償いをさせて欲しいという、真一のたっての願いでな……。条件を付けて、それを認めることにしたのだ」

「条件?」

「ああ。鳴海沢の血を引く者すべてが、この能力を得られるわけではない。もしも能力が発現した場合は、ワシに速やかに報告するというのが条件だった」


 そこまで話すと祖父は、急に肩に手をかけ、俺の身体を自分の方へと向けさせる。

 そして真剣なまなざしで、目を見つめながら低い声で力強く問いかけた。




「――ワシの跡を継がんか? 和真よ」


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