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似非占い師 ―悪党には鉄槌を―  作者: 大石 優
ホームでうつむく女
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第13話 常勝の男

 さすが裏カジノ、たやすく入店はできない。

 入店料一万円。会員証の提示。そして、一見さんお断り。

 つまり、会員に連れてきてもらわないことには入店不可。現金の飛び交う違法賭博場なのだから、厳重な入店審査も当然だろう。


 案内してもらった金髪のお陰で、すんなりと発行された会員証。初めてこの男が役に立った。続けて店内の案内を受ける。

 店内で使用できるチップは三種類。十万円チップ、一万円チップ、そして最低単位の千円チップ。それだけで非常に高レートなのがわかる。

 周囲を見回しても、羽振りの良さそうな人物ばかり。

 着ている服装は様々だが、カジュアルな服を着ている人物でさえ、気品が感じられる。街のパチンコ屋のような雰囲気はどこにもない。


「あそこにいる大病院の院長先生とか、ポーカーに誘うとホイホイ乗ってくるぞ」

「まずは、一通り見て回ってからだ。案内、感謝するよ」

「大儲けした暁にゃ、ちょっとは回せよな。いい加減店に戻らねえと怒られちまうから、俺は帰るぞ」


 優良客をカジノに案内するのは推奨行為らしい。金髪は、これで店の貢献ポイントがつくと、喜び勇んで帰っていった。

 ここの経営者は、他にもクラブやキャバレーにも手を伸ばしているらしいから、きっと周りの男性客はそこからの案内だろう。

 店で金を使わせて、さらにここで巻き上げる。見事な図式。

 薬を扱っているホストクラブに、高レートの違法賭博場。経営のトップはさしずめ、この街の夜の帝王という奴か。


(せっかくだし、何かやるか……)


 とはいえ、勝つか負けるかの勝負には興味がない。やるなら必勝でなくては。

 ポーカー辺りなら能力を使えば負けはしないだろうが、対戦相手は客同士。胴元から巻き上げるのならいいが、一般客相手では面白味がない。別に、金に困っているわけではないのだから。


 スロットマシーン、バカラ、ダイス……。色々見て回ったがしっくりこない。

 そんな中で、目に留まったのはルーレットだった。

 0と00があるアメリカンタイプ。ポケットは深く、年代物らしい。

 そんな、あまり見かけないホイールに興味が湧き、眺めてみることにした。


 賭け金の上限は無し。目の前で頻繁にやり取りされる、百万円単位の金の移動。

 さすがは裏カジノだ、一攫千金も夢じゃない。……なんて、考えている者は絶対に勝てない。

 一見、夢があるように見えるが、そんな高額を張られても、ちゃんと回収できるように対策は立ててある。そう考えるべきだ。


 しばらくして、何やらざわつく店内。騒ぎの方から現れたのは、色気漂う美女だ。

 背中のパックリと開いたドレス。胸元は谷間を強調し、スリットも深い。しかし下着は見えず、もしや履いていないのではと思わせるほど。

 ハンドバッグを肩に乗せるように持ち、ヒールの高い靴で腰を揺らしながら歩くさまは、さながらファッションモデル。男たちが取り巻くのも無理はない。

 しかし俺が目をつけたのは、少し遅れてやって来た冴えない男。

 地味な服装、地味な顔、地味な歩き方。まるで空気のようで、きっと誰の印象にも残らない、そんなタイプ。しかし類は友を呼ぶというのか、この男からは同類の雰囲気を感じ取った。


 二人ともにルーレットのテーブルについたので、それぞれをじっくりと観察。

 美女は華やかに長い髪をなびかせながら、優雅に複数ベット。

 テーブルの奥にベットするときなどは、片足を軽く跳ねあげながら胸を突き出すものだから、どよめきが起こる。

 テーブルの反対側に回り込む者、やや離れて体勢を低くする者など、露骨な行動も様々。やれやれ、まったく欲望に忠実な男たちだ。数段高くなっているこの場所から見下ろせば、悟られずに胸元を眺められるというのに……。


 一方の男はといえば、周囲が派手にチップを賭ける中、そっとベットしたのは十万円チップを一枚だけ。しかも地味に中央のコラムへ。縦一列のどれかに入れば当たりという、三倍の賭け方だ。

 そして結果は男が的中、女は外ればかりだったものの、黒に賭けた二倍のリターンで大損は免れた。


 次のゲームでは男は見送り、女は四目掛けの九倍を見事的中させ、一気に黒字化。

 その次も男は見送り、女は一点掛けの三十六倍を狙ったものの外れ。

 その次はどちらも見送った。

 そしてその次のゲームでは、また女が派手に賭ける。色めき立つ周囲の男たち。

 そんな中でそっと男がまた、十万円のチップを一枚、そっとカラムへ。

 まるで初回と同じような光景だ。結果もまた、初回とほぼ同じ。男は三倍を的中させ、女はわずかばかりの負け。


 結局、小一時間ほどの間に、男は五回賭けて全て的中。女は勝ったり負けたりだったが、トータルすればほぼ損得なし。

 男は先に店を後にし、二、三ゲーム後に女も帰っていった。


 ――間違いない。イカサマをしている。


 そして三人組なのも、ほぼ間違いない。

 城戸崎は今日はやってこなかったが、面白い収穫だ。しばらく監視してみるか。



 そして二日目。

 今日も城戸崎は来ないが、美女と地味な男は今日も共に来店。

 相変わらずの美人ぶりで、纏うドレスも煌びやか。今日も胸元が大胆に開き……。いやいや、そこに目を奪われてはダメだ。それこそ彼らの思う壺。

 女が派手に賭けて、注目させている間に、淡々と地味な男の方が仕事をする。

 賭ける場所は、センターコラムばかり。毎回十万円のチップを一枚。

 女の派手なチップの移動のせいで、毎回当てているのにちっとも目立たない。

 そして、当然こんなことを可能にしているのは、ディーラーの腕。息の合った三人組だ。

 今日も男は五回的中させると退店。女もしばらく後に退店。

 高レートのこの店で、百万円の勝ちなんて微々たるものだろう。だが、毎回積み重ねていけば相当な額。いい仕事をしている。



 三日目。

 今日は美女と地味な男は現れない。さすがに、毎日ではないらしい。

 だが、その代わりというわけではないが、城戸崎が登場。本来の目的を見失うところだった。

 さっそく、スロットマシーンに熱くなる城戸崎。そっと背後に忍び寄り、肩を叩く。

 振り返った城戸崎は、その顔を一瞬で引きつらせた。


「やだなあ、そんなに怖い顔しないでくださいよ。警察に垂れ込む気なんてサラサラないんで、安心してください」


 警察には言わない。

 その言葉で多少の安心感を得たのか、表情を若干緩める城戸崎。

 隣の台に腰掛け、さらに警戒を解かせるために言葉を続ける。


「城戸崎さんは覚えていないかもしれませんが、銀行でお会いする前にも一度顔を合わせているんですよ。覚えてないですか? 夜のホストクラブの前で」

「…………」

「あの時あなたは私に言った。『私は、この先どうしたらいいでしょうか』と」

「ああ、あの時の占いの人でしたか……」


 そこまで言うと、さすがに城戸崎も思い出したらしい。

 頷きながら、少しずつ表情を緩めていく。




「――今日は、あの時の回答をお持ちしましたよ。あなたがこの先、どう行動すればいいのかをね」


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