1話 ヴァラル軍人基地
馬に乗るのも不慣れなせいで腰が痛い ・・・・かれこれ一時間近く経とうとしている。
ヴァラル軍人基地は何故中心部から約一時間という遠く離れた場所に造られたか、理由は複数ある。
一つ目はヴァラル王国の国民の補助及び食糧などを支援するという非常に重要な役割を持っており戦争で一番にここへ狙われたらほとんどの兵力を失うだけでなく食糧不足にもなりヴァラル王国壊滅の危機に陥るから。
二つ目はヴァラル王国国民の避難場所でもありその上で安全な場所を確保するためという理由があり、他の国に知られない人目の付かない場所へ造るという国王からの指示だった。しかし、ヴァラル王国から離れて造っても大丈夫なのだろうか?軍人基地に狙われる心配がなくてもヴァラル王国へ直接被害を受けヴァラル軍はすぐにかけつけたところで間に合わない。国民からは反対の声が多数あった。軍は試行錯誤した。
そこで国は兵力の半分はヴァラル王国の見張りをつけること。もう一つは手は出さずにヴァラル王国の危険防止のためすべての国へスパイとして兵を数名送り敵の調査及び戦力分析を行うこと。これにより敵兵がヴァラル王国へ侵入してきてもそれに対抗出来る時間はたくさんあり、敵兵を迎え撃つことが出来る。それ故に国民を避難せずとも安全なヴァラル王国を築き上げてきた。
これらの成果があってこそ国民の信頼を取り戻してきたのだ。
「おっと、見えてきた。あれが軍人基地か」
軍人基地に近づくごとに新しく入ってくる新人兵らが合流してくる
森の中に柵で建物が覆われておりまだ中の様子は見えない。門をくぐり抜けると新人兵らがはじめて見るその光景に驚いていた。
当然ヴァラル王国軍人基地の場所は国民でさえ知らされてなかったから当然とも言える。そこは柵の周りに宮殿のような大きな建物がいくつか建てられており中心部に入ると大きな敷地。そこで兵士らは大きな声を出して厳しい訓練に耐えていた。途中休んだら教官に叱られる、よそ見や自分勝手な行動をしたら叱られる、何をしても叱られるその光景を見て新人兵士らはこんな厳しい訓練に耐えられるだろうか?という疑問と不安という恐怖から息をのむ。
そんな中、新人兵は訓練の邪魔にならないよう端を馬に乗って進む。
「おい、お前ら新人兵は指示があるまでここで待機な」と誘導員から声がかかり誘導員らはどこかへ向かって行った。
待機場所は建物内に入って真っ直ぐのところ、靴を履き替える場所のようだ。周りはどんな鬼教官が来るだろうか?まさかいきなり体力づくりのため走らせれたりしないよななどとざわめいている。
「リクじゃねーか」リクが振り向いた先には昨晩天文台で集まったいつものメンバー四人がこちらへ歩いてきた
「やっぱお前らも来てたんだな」
「当たりめーだろ。国の命令は絶対、戦争に参加するのを断ってしまったら国外へ追放されちまう」
「ハジメそれは?」
「これは兵士が迎えに来たときモエが俺のところへ来てこの手紙を渡されたんだけど、あいついつも心配性だから私も兵士として一緒に行くって言い出してね、必ず帰って来るから心配するなとは言っといたけど」
ヴァラル王国の場合、男性は強制で戦争に軍の一員として参加しなくてはならないけど女性の場合は少しでも多くの兵士を欲しているため強制ではないにしろ希望すれば兵士として参加できる制度となっている。
「おっと、教官が来たようだぜ」
『私が、新人兵の教官を任されることになったキイだ。よろしくな』
キイ教官は身長が高く痩せ型。金髪ロングにメガネとスタイル抜群だ。
「おおー教官ってことは女性でも偉くなれるんだな。なかなかの美人さんだな」
「なんや、エイリック。あんな感じの女性が好みやったんかい」
この時、エイリックはハジメとの会話にキイ教官がこちらを睨みつけていることに気付いた。
そしてキイ教官が話す
「おい、そこ無駄口は慎むように、私は優しく接しようするが無駄口を話している人やサボってる人などには厳しく接するようにしているからな」
その瞬間周りの空気が一変したかのように静まり出した。
そのとき周りはこう思っただろう
「怖えー怒らせたらヤバい奴だ 」と
間をおきキイ教官が再び話し始める。
「そうだな、まだ分からないことが多い新人兵に難しいことをさせようなんてことはしない。お前ら新人兵諸君は上司の命令に従って行動すること」
キイ教官は周りを見渡し、さらに言葉を続ける
「早速たが任務を与えよう。これから困難な試練が新人兵諸君を襲うことになるだろう、それを乗り切る為には体力が必須だ」
この時嫌な予感が新人兵の頭に入り込み的中する。
「ランニングだ。コースは門をくぐり抜け柵の外側を回ればいいだけだ。簡単だろ?」とキイ教官が新人兵に問いかけてみた。
「そんな簡単に言うなよ、運動もせず自堕落な生活を送ってた俺がいきなりランニングかよ」リクが周りには聞こえないくらいの小声で口に出す。
「勿論、合図があるまで立ち止まるなよ。」
「さらに立ち止まるなよときたか。こりゃー俺には無理な話だな」
うわー鬼教官かよ。などと新人兵の頭には恐怖が襲いかかる。
勿論キイ教官に怒られる可能性があるため声には出さない。
「……」
キイ教官はなにやら時計を気にしてる。気にしてるばかりで何も喋らず無言のままだ。5分、10分経つごとにキイ教官の顔の笑みがなくなってきているように思えてきた。
まさかもう始まっているとかないよなとリクは最悪な事態を予想してしまう
するとキイ教官の口が開き始めた
「いつになったら走り出すんだ」
やっぱり
「もうやることを言った。コースも説明した。なのにどうして実行しようとしない」
怒り出すと長くなりそうだな
「なんや、すみませんの一言もないのか シカトか?」
キイ教官が皆に問いかけた瞬間ガイが余計な口答えをする。
「なんだ、もう始まってるんすか?始まってることを知らせるものすらないんですか?合図一つも出さねーから知りませんでした。」
「おお、教官に向かって口答えするとはいい度胸だ。君、名前は?」と問いかけながらガイの元へ近づいていく
「ガイと言いますけど」
この時、ガイって奴すげー度胸あるななどと周りがざわつき始めてきた。
「やばいな、ここまで血が上がると誰も止められなくなる」とエイリックが呟き、リクとハジメがキイ教官に説得しながらガイを止めにかかる
「すみません。こいつ頭に血が上がってしまうと我を忘れてしまうけど本当はいい奴なんだ。だから今回限りは許していただけませんか?」
「ふん、随分といい友達に恵まれているじゃねーか」
「まあ、今回の所はこれで勘弁してやる。ただし次、口答えするようだったら容赦しねーからな」その後キイ教官が一つ思い出したかのように話を続けた。
「そうそう、言われたことに対して返事をしねー皆も悪いからな。自分は関係ねーやなんてことはくれぐれも思わないこと、分かったか?返事は?」
「はい」と一斉に返事をした。
そしてキイ教官は最後にガイの顔を見て一言つけた
「ガイと言ったな。友達を大事にしろよ。」
「よーし、じゃー走ってこい」
新人兵らは門を出て柵の外側を沿って走り始める。
走っている光景には中にいる教官の姿が見えない。気の緩みにより走りながら会話をしている様子がはっきりと伝わってくる。
ガイがスピードを落としリクやハジメのスピードに合わせてきた。
「ゴメン、迷惑かけちゃったな。さっきは本当にスマン」と誤って来た。
「別にいいよ、俺たち親友だろ?次からは気をつけてくれれば、こう言うのも慣れてるし」とハジメが即答しガイの前へ出る。
周りにはキイ教官の姿が見えないがどこからか見ているかも知れないと思いその後も真面目に走り出した。