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冒険者の街で葬儀屋を営む男の話

冒険者の街で酒場を営む女の話

作者: いちのせ

こんにちは、いちのせです。

2話目は冒険者の街で酒場を営んでいる女性(29歳彼氏なし)のお話です。

彼女の酒場には沢山の冒険者が訪れては、魔窟へ潜っていきます。



 この冒険者の街では少し有名な葬儀屋さんがいる。

 いつも黒猫を肩に乗せて、亡くなった冒険者さんを扱うお仕事なのにその表情は穏やかで。

 なんとかっていう二つ名があるみたいなんだけど、私にはよくわからない。

 こないだ私がやってる酒場で偶然葬儀屋さんの話を冒険者がしてるのを聞いて「強いの?」って聞いたら首を傾げていた。

 強いかどうかはよくわからないらしい。

 と言うより見たことないから答えようもないんだって。

 でも連れて帰れなかった仲間の遺品の回収を依頼すると、遂行率100%で持ってきてくれると巷で有名みたいだ。

 葬儀屋さんなのに、依頼で魔窟に潜っていっちゃうだなんて大丈夫なのかな。


「姉さん、まだ昼って食える?」


 お昼を随分過ぎた頃、お客もまばらでカウンターで頬杖をついていた時、私の経営する酒場に1組の冒険者がやってきた。

 1人はやたらガタイのいいいかにも脳筋!って感じの大男。

 もう1人は優男って風貌の獣人の冒険者だった。

 

「いらっしゃい、もう昼分はほとんど売れちゃって有りものでいいなら作ってあげられるよ」

「じゃあそれでお願いします」

 

 適当なカウンター席に座った彼らは、他愛もない話を始めた。

 酒場なんてところで店主やってると、否応なしに耳に届く冒険者たちの会話を野菜を切りながらついつい聞いてしまう。

 これから魔窟に行くらしいこの冒険者たち。

 今日は今まで到達したことのない中層へ進んでみるらしく、装備のあれこれを話している。

 傷薬や、途中で傷んだ武器の修繕を行う応急リペアツール、その他もろもろ。


「そうだ、お前にこれをやるよ。紙みてえな防御を厚紙くらいにする装具だ」

「何気に失礼ですね…まあいいです。では僕はこれを。素っ裸な術式に対する抵抗力を腰布くらい上げる装具です」


 なんだろう、少し二人の関係を勘繰ってしまいそうだけど、すごく仲いいんだなあ。


「はい、出来たわよ。ありあわせで悪いんだけどね」


 そうこうしているうちに完成した二人分のご飯をカウンターへ並べる。

 有りもので作った割には我ながら中々なメニューが出来たと思う。

 干し肉のスープと、野菜と卵の炒め物、あとは甘辛く味付けしたお肉の丼物。


「そっちのお兄さんは線が細いんだからたくさん食べてね」

「ありがとうございます…ってこんなに食べれませんよ」


 本当に細い。

 まあ種族柄ほっそりしているというのもあるけれど、術式特化なら筋肉量もそんなに必要ないし更に細くても仕方のないことなのかもしれない。

 胸元に光る赤い石のチャームがそれを補っている装具みたいなのだけど、それでもどれほど役に立つのか分からない。

それに今日は中層へ行くって言ってたし、ここの魔窟の中層はまだ突破できる冒険者が出てないと聞いた。


「あなた達、今日は中層へ行くんでしょ?たくさん食べて、ちゃんと生きて帰ってきなさいよね」


 この酒場でご飯を食べて、意気揚々と魔窟へ出かけていく冒険者は多い。

 というよりちいさな冒険者の街だし、ご飯を食べられるところがここと大通りにある2件しかなくて、おまけにこの酒場が一番魔窟へ近いということもあって、魔窟へ向かう前に腹ごしらえをしていく冒険者は沢山いた。

 けれど、帰ってこない冒険者もまた、沢山いた。

 コンビなり団なりが全員帰還するなら御の字だが、片方か誰か1人でも帰ってこられれば運のいい法。

 大抵戻ってこない連中っていうのは全滅なんてのが常だ。

 この2人組の冒険者がどれほど腕が立つのか私にはわからないけど、二人揃って…なんて事にならないように中層へ行くのなら本当に気をつけてほしい。

 私の料理を食べるのが人生の最後にならないでほしいと切に願う。


 でも、私のささやかな願いは無情にも叶わなかった。

 夕暮れ時、戻ってきた大男の横に、あの線の細い獣人の姿はなかった。

 そしてボロボロで傷だらけで、泥と涙に汚れた彼のあの表情を見ればそれがどういうことか解ってしまう。

 それこそ、たくさん見てきた光景だったから。

 ああ、連れて帰ってこられなかったんだ、と胸がチクリと痛んだ。

 何度見ても慣れるわけもないこの光景。

 声をかけようとは思わない。

 というか掛けられる言葉なんて私は持っていない。

 酒場の女店主ではあるけど、こういうときになんて声をかけていいか私には分からない。


「あ…」


 そろそろ日が落ちそうな、ポツポツと建物に明かりが灯る時間。

 彼がやってきた。

 肩にちっちゃな黒猫を乗せて、少しぱさついた淡い桃色の髪を揺らす、街の葬儀屋さん。

 彼は少し入り口で視線を巡らせたあと、あの大男のところへとまっすぐ向かった。

 手に持つのは、あの獣人の冒険者が胸につけていた、赤い石の付いた装具。


「そっか、帰ってこれたんだね。」

 

 カウンター越しに、つぶやく。

 帰ってこれないよりも、こうやって何か一つでも帰ってこられれば待つ方も、逝ってしまった方も救われる事だろう。

 泣き崩れる大男を店内の客が何事かと注目している。

 それから葬儀屋さんを見て、噂話が始まった。

 街では少し有名な、葬儀屋さん。

 遺品探しは依頼達成率100%で。

 こうやってクライアントに遺品を渡すと、ホッとした様に笑う。

 そんな彼の笑顔がとても印象的だった。

 酒場という場所柄、荒くれ者の多いところだが、まるで似つかわしくないほんわかした笑顔。


「ありがとうね、葬儀屋さん」


 依頼を終え去っていく葬儀屋さんの背中に、私はそう小さく声をかけた。




◆◆◆




 あれから幾日か過ぎて、買い出しに大通りの向う側にある市場へと私は来ていた。

 すると、まばらな人通りの中、特徴的なあの桃色の頭が見える。

 そういえばこの区画にあったんだっけ、葬儀屋さん。

 彼は私に気づくこともなく…と言っても私なんて顔すら覚えられてない酒場の1店員みたいな認識だろうから気づかれないのも無理はないけれど、葬儀屋さんはそのままスタスタと歩いていた。

 いつも肩に乗ってるあの黒猫は見えず、代わりになんだか大きな黒い犬みたいな獣を連れている。

 それに、腰に挿しているのは金の装飾の施された黒い鞘。

 背には小さめの道具袋。


「もしかして、あれが魔窟へ潜る装備なのかな…」


 だとすると随分軽装な気がしないでもないけれど、あれで遂行率100%だなんてよっぽど強いんだろうな、なんて思う。

 時折隣を歩く大きな獣と言葉をかわすように口を開いていた葬儀屋さんのその横顔。

 酒場で見る穏やかな顔ではなく、若干怒っているようにも見えた引き締まった表情だった。

 すこしドキッとしてしまったのは内緒だ。

 そうして角を曲がって私の視界から葬儀屋さんが消えてゆく。

 立ち止まって見てしまっていた私は我に返り、速くなった鼓動をごまかすように買い出しを再開するのだった。


「おじさんこれと、あとこれとこれ20個ずつちょうだい」


 買い出しの最中も私の頭はさっき見た葬儀屋さんでいっぱいだった。

 魔窟の存在が無くならない限り、彼はああやって遺品探しの依頼で潜り続けるのだろう。

 魔窟がなくなる、なんて恐らく未来永劫訪れることはない。

 だからあの人もきっと未来永劫、遺品を探し続けるのだろう。

 だから、というわけではないけれど私も魔窟がなくならない限り、きっと酒場で女店主をしていると思う。

 そうして訪れる冒険者達にとびきり美味しいご飯とお酒を提供し続けるんだ。

 最後の晩餐などではなく、また食べたいからきっと生きて帰ってくるぞって思ってもらえるように。


「あ、おじさんこれオマケして!」


 この街には、少し有名な葬儀屋さんがいる。

 なんとかって二つ名の、遺品を探し続ける葬儀屋さん。

 彼はいつも肩にちっちゃな黒猫を乗せて。

 きっと今日も遺品を探し続けて魔窟へ潜るのだろう。


 

 

 



 

 

 

 

ここまで読んでくださりありがとうございます。


この女店主の名前はアイラさんと言います。

どうでもいい設定としては背は165くらいで細身でバインバインです。

お友達があまりいないのですが、幼馴染(女)がギルドで働いていたり、元カレが冒険者団の団長だったりとどうでもいい感じで存在します。


この世界には魔族(魔窟に棲むモンスターたち)と人間族、妖精族、獣人族、神族、竜族、とかたくさんいます。

ハーフなんかも存在するので異種族間でのアレはアレしてしまうので注意が必要ですね()

けれどハーフはよほどの相性みたいなものでないと産まれてこないので物凄く少数です。


設定考えるの大好きなのですが考えると風呂敷が広がりすぎて大変なことになりそうです。

ということで拙い文章でしたが読んでくださってありがとうございました!

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