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あの日君が見せたかった景色は  作者: 雨音
第三章 猫と少女
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第二十五話

 「ん、んん…」


 どうやら今さっきまでのことは夢だったようだ。でも今までと違って「あの夢」ではなかった。あの知らない停留所での夢。いつも目が覚めると泣いている夢。あのボトルレター以来見る夢はずっと同じだった。その時の私は少し嬉しかったんだ。自分の中で何がが確実に始まってるんだって。

 昨日の夜凛さんに明ちゃんの事を話した。最初は驚いていたけれどそれからはずっと黙ったまま聞いてくれていた。そして一通りを聞き終えると何かをひらめいたのか電話をかけに駆け出していった。戻ってきた凛さんの顔はとても満足そうで、聞いてもその理由は教えてくれなかった。

 

 身体を起こし、壁にかけられた時計に目を凝らすとまだ朝の五時少し前。二人はぐっすりとまだ眠っている。千尋ちゃんはしっかりと布団に入っているけど、凛さんは寝相が悪いのか布団から体が出てしまっている。服の間からお腹が見えていてそれをたまに掻く姿に少し笑いそうになる。とりあえず布団をかけてあげた。なんだかもう眠れる気がしなくて軽く身支度を済ませ顔を洗うとまだ日の上らない外に出た。昼は灼熱のような外であってもまだこの時間は涼しい。少し霧がかかっていることも影響しているのかもしれない。だからなのか私の足取りは軽く真っ直ぐにあの神社に向かっていた。


 

 


 「…ちゃん。」


 「ん?」


 神社前の石段に到着すると、何かが聞こえてきた。私は慌てて立ち止まり辺りを見渡した。


 「お姉ちゃんこっちこっち。」


 声のする方を見上げると石段の中頃に白いワンピースを着た女の子が座っていた。一本一本綺麗に手入れされたその長い黒髪はとても神秘的に見えた。私が石段を上り近づくとその子は私の分のスペースを開けてくれた。ここに座ってということなのだろう。


 「お姉ちゃん朝早いんだね。」


 「ちょっと早く起きちゃったんだ。君も早いね。…あれ?もしかして昨日神社にいなかった?」


 「やっぱり覚えてたんだね。」


 「うん。いつの間にかどこかに行っちゃったからね。」


 やっぱりそうか。あの後明ちゃんの話を聞いて忘れていたが、私はこの子の事が気になっていた。


 「昨日はなんであんな遠くから見てたの?」


 「う、うん。ちょっと明ちゃんと遊ぶ約束してたから。周りにお姉ちゃん達がいて近づき辛くて。」


 「あ、そうだったの?御免ね。ちょっと明ちゃんの猫がいなくなっちゃって探してるんだ。」


 「…………ミイちゃん?」


 「そう。」


 「…………明ちゃん心配してる?」


 「うん。とっても。」


 「そう、だよね…」


その子はそのまま黙った。すると突然目の前が光で真っ白になった。手をかざしながら目を凝らすとちょうど正面の山からゆっくりと朝日が顔を出した。日の光は辺りの霧に反射してその輝きを強め始めた。


 「あれ?あれってお日様?」


 「うん、そうだよ。」


 「でもお日様ってお山に隠れてっちゃうんじゃないの?」


 「うん、それもあるけど同じように山から出てくるものもあるんだよ。」


 「へー。」


 私とその子は光に少し目を細めながらしばらくじっと眺めていた。


 「…じゃあこれが『もう一つ』なんだね。」


 「ん?」


 「ううん、なんでもない。」


 なんだかその子の顔は嬉しそうに見える。でもすぐに悲しそうな顔に変わってしまった。


 「は、は、ハックション!」


 突然出た私のくしゃみにその子はビックリしていたがすぐに私の顔を見て笑いだした。ケラケラと私の顔を指差している。きっとひどい顔をしているのだろうな私…私は慌ててティッシュを取り出して顔にあてた。その子があまりにも笑うから少しムスーってしてみたがさっきまでの顔が明るくなった事が少し嬉しかった。しばらくお互いに笑っているとカタカタと誰かが近づいて来るのに気づいて振り返った。するとそこには神主さんが立っていた。


 「おはようございます。まだ早いのに随分楽しそうですな。」


 「あぁ神主さん、おはようございます。そちらもかなりお早いんですね。」


 「年寄りはどうしても早寝早起きが身体に染み付いてましてねぇ。毎朝起きたらここに来てお天道様を拝むようにしてるんですよ。そしたら先客がいたものですから。で何か面白いことでも?よければ私にも聞かせて下さいな。」


 「そんな大したことじゃないですよ。ただこの子の前で盛大にくしゃみをしてしまっただけで。」


 「この子?誰かいるのですか?」


 「えぇここに…ってあれ?」


 横を見るとあの子はどこにもいなかった。あれ?いつの間にか帰っちゃったのかな?まだ名前も聞いてないのに。不思議そうに私を見る神主さんに事情を話すと立ち上がった。そしてふと下を向くと赤色の髪留めが落ちていた。これはあの子のだろうか。今度会ったら返してあげようかな。髪留めをポケットにいれると神主さんに軽く挨拶をして旅館への帰路に着いた。

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