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あの日君が見せたかった景色は  作者: 雨音
第三章 猫と少女
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第二十四話

 ここは…どこ?私の目の前にはぐねぐねと曲がった上り坂が続いている。おそらく季節は春先かな。桜が少しずつその花を散らせながら道なりに並んでいる。右側は土手がコンクリートで舗装され、左側は崖になっている。覗き込むと田園や少しの民家が見え、その高さにクラっとしてしまった。

 しばらくその坂を上り続けると小学生の集団に出くわした。おそらく今は登校時間なのだろう。試しに挨拶をしてみたけど、どうやら私の声は届いていないみたい。ケラケラと笑いあってははしゃぎ続けていた。

 春先ということもあってまだ朝は肌寒い。何故か夏着の私は両腕をさすりながら坂を上り続けた。少し先の方に女の子が見えた。見覚えのある後ろ姿に走って回りこんで見ると、やっぱり小さい頃の私だった。周りには誰もおらず、彼女は一人っきりだ。その顔は少し緊張しているのか固く、若干下を見ながら黙々と上り続けている。

 道が一番高いところに達するとその道は二つに別れた。小さな私はそれを見て慌てている。どうやらどちらに行けばいいのか分からないようだ。分岐点であたふたとしていると、チャリンチャリンと軽快な音が近づいてきた。二人で同時に振り向くと一人の男の子が自転車を押して坂を上って来た。


 「学校はこっちだよ。」


 そう言って男の子は右の道を指差した。


 「こっちに行っちゃうと池の方に行っちゃうから間違わなくて良かったよ。」


 男の子はニシシと笑っている。


 「あ、あ、ありがとう…」


 「何それ。変なのー。」


 そう言って男の子は笑い始めた。小さな私の顔を見れば真っ赤だ。その目には少し涙を浮かべている。


 「うわぁごめんごめん!えっと、えっと、ど、どうすれば…」


 男の子は慌て始めた。そのさっきとは違うあまりの慌てぶりに小さな私は笑い始めた。それを見て安心したのか男の子も一緒に笑いだした。


 「君、名前はなんていうの?」


 「雨音…高崎雨音。」


 「雨音か…僕は…」


 キーンコーンカーンコーンと遠くで学校の始業のベルがなり始めた。


 「うわっヤバい!学校始まる。雨音、急ごう!」


 「う、うん!」


 そう言って私は二人の後ろ姿を見送った。段々と小さくなっていくその姿を見ながら私の意識は段々と遠のいていった。

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