第二十三話
その後しばらくして私達は各自でお風呂に入ることになった。ジャンケンで決めた順番は私、千尋ちゃん、凛さん。私はもう風呂を済ませ夜風で涼むために縁側に腰掛けている。軒から垂れ下がった風鈴はチリンチリンと可愛い音をたてて右に左に揺れている。その音を聞いては合わせるようにお縁から出した足をバタつかせた。髪や指の間などありとあらゆる隙間を通って行く風は少しずつ熱を連れて眼前に広がる闇の中に吸い込まれていった。
「うわっ!冷たい!何?」
突然左頬に触れた何かに私は驚き、慌てて振り返った。
「ニシシシシシ。はい。私の奢り。」
そうして差し出した手の主は千尋ちゃん。風呂上がりだからなのか湿った髪が月の光を浴びて少し輝いている。手には昼間に凛さんに買ってもらったソーダ味のアイスが握られていた。ベタぁと炎天下の地面に広がった姿を思い出した。
「雨音、昼間食べれなかったでしょ。」
「ありがとう。…でもまだ夕飯前だよ?」
「いいのいいの。夏の風呂上がりって言ったらアイスでしょ。それにおやつは別腹って言うしね。それとも食べたくない?」
「…食べたい。」
「そうこなくっちゃ。」
千尋ちゃんは私の左隣に座るとアイスの袋を開けた。
私達はそれから昼間の事を話していた。凄く暑かったこと。私のくしゃみの事。ミイが見つからなくて悔しかったこと。満くんの事。明ちゃんの事。奏音島にはほとんど子供がいなくて同世代の子なんていないようなものだった。だから千尋ちゃんとこうして話すことはとても新鮮で、とても楽しい。話の合間に風呂場から漏れてくる凛さんの鼻歌を聞いては互いに笑いあった。話に夢中になって溶け出してしまったアイスは水滴となって軒先の
地面に転々と跡をつけた。
「…そういえば満くんに言ってたこと聞いてもいい?」
「…もしかして友達のこと?」
「うん。」
「あぁ、あれか…あれなぁ…」
千尋ちゃんにしては珍しくとても歯切れが悪かった。とっくに食べ終わったアイスの棒をじっと見つめ手元で折ろうとしている。
「千尋ー、ご飯できたから手伝ってくれないかい?」
「あ、はーい。ごめん雨音。また今度話すわ」
「…分かった。私も手伝うよ。」
そう言うと私達は立ち上がった。
「あぁ気持ちよかった。」
「あ、凛さん。鼻歌聞こえてましたよ。」
「マジ?それはお恥ずかしいのを聞かせてしまいまして。」
「今ご飯出来たみたいですよ。」
「お!やった。もうお腹ペコペコ。」
そう言って凛さんは居間の方に向かって行った。それを少し笑いながら私達も後に続いた。




