第二十話
「はい、捕まえた。」
「離せよ!姉ちゃん達何なんだよ!」
捕まった男の子はやはり昼間に会った満くんだった。千尋ちゃんのナイスランによって意外とすぐに捕まった。聞けば走りも彼女が『割と卒無くこなせる事』の一つだそうだ。私は二人を見失わないようにするので精一杯で、追いついた今は肩で息をして乱れた心臓を整えている。
「で、何でこっち見てたの?」
「べ、別に関係ないじゃん。」
「あぁそう。そう言う態度なら……よっと!」
千尋ちゃんは満くんの両脇を抱え上げると、ブンブンと回転を始めた。
「おぉ!何、ちょ、止めろよ!おい!あ、あぁぁぁぁ!」
「まだまだ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「言うか!?」
「い、言わない!」
千尋ちゃんは更に回転の速度を上げた。満くんの悲鳴は更に大きくなった。
「言うか!?」
「い、言わない!絶対に言わねぇ!」
それから二人はしばらく回転を続けた。お互い意地を張り続けた結果、満くんがぐったりとしたところで千尋ちゃんのホールドから解放された。ちょっとやり過ぎな気がするね。満くんはその場に座り込み、千尋ちゃんはその隣に腰掛けた。私はその場に立ったまま尋ねた。
「えっと…満くんだよね。どうして隠れてこっちを見てたの?」
「…ちょっと、気になったんだよ。」
「何が?」
「……明が。」
ははーん、なるほどね。
「……ふーん、なるほどね〜。」
「な、なんだよ。」
「べっつに〜。」
千尋ちゃんは少し茶化すようにニヤニヤとしている。それが分かってか満くんは顔が赤くなってしまった。
「だってあいつ全然学校に来ないから。」
そんな満くんの一言で私達は我に帰った。その顔はとても深刻そうだ。
「昼間も言ってたけど、それどういうことなの?」
満くんはしばらく黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「…アイツの父ちゃんと母ちゃん、死んじゃったんだよ。」
これから私達は知ることになる。小さな身体の背負った悲しい過去も。それを助けようとする少年の苦悩も。




