第十八話
しばらくして千尋ちゃんが戻って来た。どうやらお婆さんも知らなかったようだ。残念だったけどこればっかりは仕方がないね。
その後私達は境内の湧き水でそれぞれに身支度を済ませた。アレルギーのせいもあったけどひんやりとした水で顔を洗うのはとても気持ちがいい。バシャバシャと音をたてるたびにじっとリとまとわりつく夏の不快感はどこかに消えていった。
「ん?なんだこれ」
そう言って千尋ちゃんが拾い上げたのは赤色の半透明なおはじきだった。光が当たるたびに反射を繰り返しキラキラと輝いている。
「あぁ。やっぱり。」
「やっぱり?」
「うん。ちょっと待っててね。」
そう言って神主さんは少し早足で神社奥に戻って行き、五分ほどして帰ってきた。
「これこれ。」
そう言う神主さんは銀色のお菓子ケースが持っている。中を開けると様々な物が入っていた。ビー玉、何かの布、ペットボトルのフタ、髪留め、クリップ。ぱっと見る限りガラクタと呼ばれてもおかしくないものばかりだ。でもそれらには共通していることがあった。それは全てが赤色なのだ。神主さんは千尋ちゃんからおはじきを受け取るとその中に加えた。
「なんですか?それは?」
「私にも分からないんですよ。ただ毎日と言っていいほどここら辺に置いてあって。誰かのイタズラかなとも思ったのですが一応こうやって取ってるんですよ。」
「…なんだか不思議な話ですね。」
「えぇ。でも私にとっては一つの楽しみなんですよ。次は何だろう。次は何だろうって。」
神主さんはそう言って笑いながら箱の中を見つめている。
「…キレイ」
ボソりと呟いた声を私達は聞き逃さず、一斉に明ちゃんの方に目を向けた。それに驚いたのか明ちゃんは顔を赤くして慌てて下を向いた。
「…赤、好きだから…」
そう言って更に下を向いてしまった。
その時だった。私は何かの視線を感じて周りを見渡した。するとあの大きな楠木の下に女の子がいるのが見えた。真っ白なワンピースだ。彼女の見つめる先には下を向いたままの明ちゃん。その見つめる表情は少し心配そうだ。私と目が合うと慌てて木の裏側に隠れて見えなくなった。
「あ、待って!」
私は慌てて近づいたけれどすでにどこかに行った後だった。
「雨音ー、どうしたー?」
「あ、いえ…なんでもないです。」
あの子は誰だったんだろうか。なんで逃げるように行ってしまったんだろう。
「ハッ、ハックション!」
この時はまだ分からなかった。あの子の見つめる意味も。私の盛大なくしゃみの意味も。




