第十七話
「お待たせー。呼んで来たよ。」
「あ、千尋ちゃんお帰り。」
千尋ちゃんの少し後ろの方をゆっくりと誰かがついてきている。多分神主さんかな。
そして少しして凛さんが戻って来た。
「で、千尋ちゃん、私に聞きたいことがあるんだよね。何かな?」
そう言う神主さんの声は見た目の年齢に反してとてもハッキリとしていた。そのためか腰は曲がっているけれども若々しく感じる。でも外輪を残し、薄くなった白髪の頭から生きてきた年月を見てとることができた。
「ちょっとこういう猫を見たことない?今私達探してるんだけど。」
そう言って千尋ちゃんは明ちゃんの絵を手渡した。神主さんは老眼なのか絵を手元で前後させてピントを合わせている。
「どれどれ…」
それをまじまじと見つめるとしばらく神主さんは黙っていた。
「…うーん、ごめんね。ちょっと私はわからないな。うちの婆さんに聞いてみようか?」
「あ、いいよいいよ。それなら私が聞いてくるから。」
そう言って千尋ちゃんは再び神社の奥に消えていった。
「あぁ申し遅れました。私この神社の神主で竹満といいます。」
「あ、こちらこそ。私は凛でこの子は雨音っていいます。ちょっとなんでも屋ってのをやってまして。」
「ほぉ。お若いのに素晴らしいことですな。」
「いえいえそんな。」
そう言いながらも凛さんは満更でもなさそうだ。
「猫はこっちの明ちゃんの猫でして、一週間帰って来てないみたいなんです。」
「あぁそうですか…絵の猫はこの子の…」
神主さんの顔は笑っているけれども少し辛そうに見えた。
「お二人は千尋ちゃんとはいつ知り合ったんですか?」
「ついさっきです。なんかちょっと変わってますよね。あの子。」
「確かにそうかもしれませんね。」
神主さんは少し笑いながら千尋ちゃんの消えていった奥の方を振り返った。私はさっきここに来るまでの事を思い出していた。通り過ぎて行く人々が彼女に向けるのは笑顔や感謝の言葉。本人は皆に顔が知れてるからだと誤魔化していたけど、表面で見える以上の魅力が千尋ちゃんにはあるのかもしれないな。




