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あの日君が見せたかった景色は  作者: 雨音
第三章 猫と少女
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第十六話

 明ちゃんはあれからずっと黙ったままだ。私も気になってはいたけれど深くは聞けなかった。おそらく凛さんも千尋ちゃんも同じだろう。少しギクシャクとした空気の中私達は他愛もないことを話しながら神社を目指した。


 「よし、到着。」


 千尋ちゃんの案内のもと到着したのは神社前の石段。今までずっと上り坂だったからか少し息を付きたい気分だ。石段の先には大きな木が見えた。あれは楠木くすのきだろうか。ここからでは全体は見えない。


 「あ。」


 突然明ちゃんが口を開いたけれど、それに驚いた私達の反応に気づいてまた黙ってしまった。

 

 「どうしたの?」


 私が聞くとしばらくして明ちゃんが再び小さな声で話し始めた。


 「…前に来たことがある。…ミイと。」


 「え、ミイと?なんでなんで?」


 「………。」


 そう千尋ちゃんが尋ねるとまた黙ってしまった。


 「まぁまぁ、とりあえず行こ。ここの神社湧き水があるみたいよ。」


 そう言いながら凛さんは笑って石段横にある看板を指差した。『湧き水あります。欲しい方は気軽にお声をかけてください。神主』と書いてある。


 「あ、いいですね。暑いですし、私の鼻もそろそろ限界だったので。」


 「雨音鼻がどうかしたの?」


 「ちょっとアレルギーがあるんだよ。猫。」


 「…それでよく猫探し手伝ってるね。」


 「そりゃ仕事だし。…それに…明ちゃんにも元気になって欲しいしね。」


 そう言って笑いかけると明ちゃんは一瞬顔を合わせてすぐに下を向いてしまった。麦わら帽子からチラチラ見える顔は少し赤くなっている気がした。

 

 神社の境内にある楠木は石段下からでは想像できないほど大きなものだった。まさに神木といった雰囲気だ。縦に大きいのは勿論だけど横に伸びる枝もとても力強く小枝一つ一つに至るまでびっしりと緑で埋め尽くされている。


 「じゃあ私は神主の爺ちゃん呼んで来るから。」


 「私も少し電話をかけて来るから二人はこの辺で待ってて。」


 そう言って千尋ちゃんと凛さんは行ってしまった。


 「とりあえず座ろうか。」


 明ちゃんはコクリと頷くと私達は賽銭箱前の階段に座った。もう一日歩きっぱなしで足が限界だ。境内の敷地はあの楠木が作り出す日陰で覆われている。でも点々と日向も残っていて、それが風が吹くたびに場所を変えていく姿がとても綺麗だ。


 「…さっきの事だけど聞いてもいい?なんでミイとここに来たの?」


 明ちゃんは黙ったまま下を向いている。


 「もしかしてなんか特別な事だったのかなって思ったから。」


 それでも黙ったままだった。でも口元を固く噛んだ明ちゃんの顔はとても辛そうに見えた。


 「いや私もね前に友達と神社に来たことがあったんだ。神様にお願いするためにね。」


 あれ?そういえば一緒に行った友達って、『誰』だったっけ。

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