第十二話
「はっ、はっ、ハクション!んん…」
「大丈夫?なんかどんどん酷くなってない?」
「んん…えぇ。そんな気がします。」
まぁ自分で決めた事とはいえこれはなかなかきつい。道歩く人に聞いては見かけた場所に向かうのだからどうしてもいろんな猫に出会う。そのたびに大きなクシャミをしては猫達は逃げて行った。この調子で私がついて行けば仮に見つけても捕まえられない気がしている。
白い猫、茶色の猫、ぶちのある猫、真っ黒の猫、いろいろな猫を見かけたけれど赤のバンダナはしていなかった。ていうかミイはちゃんとバンダナをしているのだろうか。どこかに落としていたりしたら絵でしか見ていない私達には判別ができない。明ちゃんだけが頼りだ。正直私には猫なんて皆同じに見えるからね。
もうかれこれ三時間ほど探しているけど今だにミイらしい情報は聞けていない。明ちゃんを見ると凛さんが貸してくれた麦わら帽子を深々と被って黙々と歩き続けている。ミイを見つけたいという気持ちはあるが流石に疲れているのかその足取りは重そうだ。三人の額をゆっくりと汗が流れていった。
「ちょっと休憩しようか。」
そう言う凛さんの声にあまり元気は感じられない。私達はその提案に従いのそのそと一軒の雑貨屋に近づいた。看板には『田中商店』と書いてあり、夏の日差しを遮るために入り口横に建てられた簾は昔ながらの落ち着いたら雰囲気を作り出している。店内には駄菓子やキッチン用品、若干の野菜やインスタント食品など意外と品揃えがあった。この辺も私の島同様に活気があるとはお世辞にも言えない。大きなスーパーなどが近くにないため、地元の人達はこういった所で生活に必要な物を揃えるのだろう。店の奥の方でお婆さんがじっとテレビを見ている。
「二人とも何か好きな物をとって。私の奢り。」
そう言って凛さんは片手にアイスを持っている。これまで外を何時間も歩いて来たからなのかそのアイスは輝いて見えた。私と明ちゃんは凛さんと同じソーダアイスを手に取った。青のパッケージが爽やかさを演出している。
「すいませーん。」
すると店奥から声が聞こえてきた。
「お客さん?あぁはいはい、ちょっと待ってね。」
そう言って私と同い年くらいの女の子が出てきた。髪は凛さんより少し暗い茶色のマニッシュショートで、とても活発そうに見える。全体的に日焼けをしているのもその印象を強めているのかもしれない。
「・・・お客さん達、この辺では見かけませんけど、観光ですか?」
女の子は片手間にレジ作業をしながら尋ねた。
「違う違う。ちょっと仕事。」
「そりゃそうか。この辺なーんにもないですもんね。」
そう言ってケラケラと笑っている。なんとなく雰囲気が凛さんに似ている気がした。
「仕事って?」
会計でレジを見たまま聞いてきた。凛さんは早速アイスを食べ始めている。
「ん?なんでも屋。」
それを聞いて興味を持ったのかその子は顔を上げた。
「へー何でも屋・・・。・・・それは頼めばなんでもやってくれるって感じですか?」
「んーまぁそんな感じかな。」
「なんでも?」
「私達が出来る範囲なら。」
「私達?」
「そ。私とこの子。こっちの女の子は依頼人。」
そう言って凛さんは私達を引き寄せた。とりあえず会釈。明ちゃんはモジモジと胸の前で手をコネコネしている。
「んー、どうしようかな・・。」
「ん?」
「あ、いや変わってるなと思って、なんでも屋。」
「まぁあまり聞かないよね。」
それっきりしばらくその女の人は黙ってどこか上の空になった。店の入り口をじっと見つめて何か考え事をしているようだ。私と明ちゃんはアイスがすでに溶け始めていることに気づいて慌てて袋を開けた。
「よし、決めた!」
「あ。」
突然の事に驚いて私はアイスを落とした。それはグシャリと悲しい音を立てるとじわりじわりと砂糖水へと変わっていった。
※作中に出たマニッシュショートの『マニッシュ』は「男っぽい」という意味だそうです。男っぽい中にも丸みを残しているために女の子らしさも感じられるショートカットです!




