第十話
ここはどこだろう?どこかの神社だろうか…なんだか声が聞こえてくる。
「…まね、雨音!」
「んん?…くん?どうしたの?」
「どうしたって…約束したじゃんか…今日は…………だろ!」
「何?聞こえないよ…くん…」
「……………!!」
「ん?」
意識が遠くなっていく。私に向けられた誰かの声もだんだんと聞こえなくなっていった。でもあの声どこかで聞いた気がするけど…誰だったかな?
「ん…………」
「お、起きた?」
「…私、いつの間に寝てたんですね。」
「あまりにも気持ち良さそうに寝てたからね、起こさずにいたよ。」
「なんかすいません…」
「ううん。」
今は凛さんの軽トラの中だ。本島に渡ってかれこれ一時間ほど過ぎただろうか。慣れない早起きのためか車に乗ってからの記憶がない。
「ねぇ呼び方って雨音で大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「オッケー。私も凛でいいから。二人だけなんだし堅苦しいのはなしでよろしくね。」
「分かりました。」
ふと車窓の外にふと目を向けると朝はまだ穏やかだった海は普段の勢いを取り戻し、たまに大きな水しぶきがあがっていた。それに反射した太陽の光は七色に輝き、昼が近づいていることを私達に感じさせた。しばらく眺めているうちに少し窓際の暑さを感じ、視線を車内へと戻した。
「そういえば凛さんはなんで『明美町』のほうに?」
「ん?仕事仕事。」
「なんでも屋の?」
「そ。電話さえもらえればどこにでも行ってなんでもする、それがなんでも屋だからね。『明美町』に行く途中にも何個か依頼されてんの。」
『明美町』。それが私が目指す町だ。小学生の頃だからあまり覚えてはいないけど、何もないど田舎だったことは覚えている。山に川、田んぼに畑。小さい頃はそれで十分だったかもしれないけど今だったら退屈に感じるかもしれないな。まぁ今住んでるところもそんなに違いはないんだけどね。
プルルルル、プルルルル…突然電話がなった。凛さんは運転を片手でこなしながらすぐに電話に出た。しばらく応対した後、私の方を見てニッコリと笑って言った。
「雨音、仕事。ここの近くだからすぐにむかうよ。依頼一件目、準備はいい?」
「は、はい!」
少し慌てて返事をしたからなのか声が裏返ってしまった。それを聞いて凛さんは吹き出して笑いだした。




