夢か現か
ぼんやりと体を起こして、窓の外を眺める。
いつの間にか眠っていたらしい。
身じろぎをすると、みしりと腰が痛みの声を上げた。
(ああ、そういえば)
昨日の出来事を思い出す。
大学時代の部活仲間との飲み会。
気の置けない友人達との酒は思いのほか進み、気付けば目の前には空のグラスが大量に並んでいた。
酒は元々得意ではない。全くの下戸という程ではないけれど、学生時代に授業でやったアルパッチテストでも、すぐに肌が赤く染まった。酔いやすい体質らしい。
だから、必要以上にはいつも飲まないようにしていたのだけれど。
どうやら、気兼ねのない飲み会というのも少々考え物のようだった。
(……でも、途中から記憶がない)
やんややんやと騒ぎ、飲み、学生時代に戻ったかのような錯覚を感じたことまでは覚えている。
隣に、懐かしい後輩が並んできたことも。
先輩、先輩。
少し低くて甘い声が耳を撫でるのも、随分久しぶりのように感じた程。
ついこの間まで学生だったのに、あっという間に過去にしてしまえる程、社会人というのは忙しいんだな、と我ながら他人事のように感じる。
「ねぇ、先輩」
遠くで声が聞こえたきがした。
窓の外は朝もやですっかり真白くけぶっている。
これが夢なのか、現実なのかも分からなくさせるかのように。
ぱた、ぱたと足音がする。
段々と音は近づいてきて、ベッドのスプリングがぎしりと音を立てた。
「目は覚めましたか」
くるりと体を反転させると、記憶の最後に側にいた、響がいた。
心なしか、大学の頃よりも、年月を経て精悍さが増している気がする。
「えっと…おはよう?」
「はい、おはようございます」
響は至って落ち着いた様子で、シルバーフレームの眼鏡をくいと上げ直す。
「……状況の説明を」
先輩の威厳を保つべく冷静に返したものの、内心では若干焦っていた。
布団の中の私は、下着を全く身に着けていない。しかも、謎の腰痛。そして気だるい体。
「先輩、昨日しこたま飲んで酔っ払ったの覚えてますか?
それで、飲み会会場から近かった俺んちで回収しました」
本当に、それだけ?
じっと疑いの眼で見つめていると、彼は笑った。
「それだけ、にしてもいいですよ」