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自由を見た朝

作者: Rhea

 子供が玄関でぐずついていた。

 学校へ行くために靴を履こうというときだった。彼は靴紐を結べないわけではなかった。ただ、あまりそこから動きたくないのだった。

「どうしたの?」と母親はリビングから尋ねた。

 しばらくの沈黙。そして子供は言った。

「学校、行きたくない」

「あら」と母親は言った。「何か理由があるの?」

「何となく」と子供。

「嫌なことがあった?」

「嫌じゃないけど、行っても楽しくないんだもん」

「おうちにいたほうが楽しい?」

「うん」

 子供はこっくりと頷く。

「それじゃあ」と母親は明るく言った。「今日、学校、お休みにしちゃおっか」

「えっ?」と子供は思わず目を丸くして言った。「そんなことできるの?」

「駄目だって思った?」

 そう微笑みつつ訊き返す母親に、子供はしかめ面をして悩んだ。あまりに予想外のことだったので、判断に困っているようだ。結局、子供は答えた。

「休めるんだったら、休みたい」

「じゃあお母さん、学校の先生に電話して伝えておいてあげるから。ちょっと玄関の中で待っててね」

 母親はそう言うと、家の奥に引っ込んで、学校へ電話を掛け始めた。子供は玄関で、自分の靴を意味もなくいじりながら待つ。母親は話を終えると、挨拶して電話を切って、また玄関に戻ってきた。

 何をするのかと子供が見ていると、母親は自分の靴を履いた。

「あれ、どこか行くの?」と子供。

「うん。学校に行く代わりに、お散歩に出掛けるって言っちゃったから。行かないと怒られるかもよ」

 靴を履いた母親は、玄関扉を大きく開けた。

「さあ、それじゃあ行きましょう。手ぶらでいいよ」

 子供は少し迷ったようだったが、結局、何も言わずにランドセルを下ろした後、母親に続いて玄関の外へ出た。母親が扉の鍵を閉め、そして二人は散歩に出掛けた。

 通学と通勤の時間であり、スーツを着た人たちと道でよく出会った。道路を走る車もどことなく忙しい。母親が歩く道は通学路ではない。途中で、学校に向かう子供たちの姿が遠くに見えた。

「みんな学校に行くね」と母親は言った。

 少し時間を空けて、「うん」と子供は言った。

「今日はどこに行くのも自由だからね。どこか行きたいところ、ある?」

 子供は訊かれて、うーんと斜め上を見た。

「わかんない」と子供は答えた。

「それじゃあ、このまま真っ直ぐ行ってみようか」と母親。

 二人は歩き続け、ある公園の前で立ち止まった。誰もいない。遠くから子供たちの笑い声と、走る音が聞こえてきた。朝の光が、家々の長い影を作っていた。

「寄って行こうか?」と母親は訊いた。

 子供は少しばかり迷ってから、公園に入った。早速ブランコに乗って漕ぎ始める。母親はベンチに腰掛けた。子供は一人で一生懸命に漕いで、数分間それで遊んだ。その後、砂場に行って山を作り始めた。

 山を三つ作り終わった後、子供はすることがなくなったらしく、母親のところに歩いてきた。

「帰る」

「はいはい」と母親は言って、ベンチから立ち上がった。

 公園を出て、誰もいない街路を二人で並んで歩いた。少し進んだところで、子供は突然ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「どうしたの?」と言って母親は立ち止まる。「寂しくなっちゃった?」

 子供は手で涙を拭いながら頷く。

 母親は子供の傍に屈み込み、頭を撫でてやる。

「自由って、こういうことだよ」と母親は優しげに言った。「どうだった? いいところも、悪いところもあったでしょう?」

 子供は頷いた。

「それじゃあ、おうちに帰ろう」と母親。

 子供はもう一度頷いた。少しだけ泣き止んでいた。

 母親は立ち上がった。

「どうする? 帰った後、学校に行ってみる?」

「えっ」と子供は驚く。「できるの?」

「うん。途中から行くかもしれません、って先生に伝えておいたから」

 子供は少しばかり迷ったようだったが、すぐに頷いた。

「行ってみる」

「よし、じゃあ帰ろうか」

「うん」

 子供は母親と手をつないで、再び歩き出した。

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