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短編小説「余命」  作者: 高山 和義
第1章 終わりへ向かう、すべての始まり。
7/12

その6

「あの」

「なんでしょう?」

「一時退院って、可能ですか?」

「一時退院ですか……、あまりお勧めはしませんが」

「何言ってるの?」

驚いたような口調だが、母親の声が冷たい。

「実は少し行きたいところがあって……、特に体感するような異常は今のところないですし、一時退院くらいできるかな、と思ったのですが」

母親に相談したところで許可が出るわけもなく、僕は相手を担当医に絞った。

「難しいですね、なにかしらの薬をお出しできればよいのですが、今はそれも出来かねる状況なので……。どうでしょうかお母様?」

しまった、話が母親に向いてしまった。

「私としては、息子には体の不安がなくなるまで入院して、しっかり治療して頂きたいところです」

ほらやっぱり。

母親はこういうところは頑固だから、許してくれるはずがないと薄々わかっていた。

「一時退院くらいいいだろう、母さん」

「一時的な退院で、何がしたいの?」

「旅がしたいんだ」

「そんなの完治したあとでも行けるじゃない」

「違う、今行きたいんだ」

「やめておきないさい」

「……あまりこういう事は言いたくないけれど、もし転院してもなかなか病名がはっきりしないと、ずっと病院で過ごすことになるんだよ。ただでさえ今もこれだけ検査検査検査で特定できなかったんだから、次の病院でも出来る保証はない」

一息おいて


「『最後』に一回くらい頼みを聞いてくれたっていいじゃないか」


もちろん、この一言で母親が激怒ことはわかっていた。

「―あんた、自分の言ってることの意味、分かってるの?」

「ああ」

しばらく、緊迫した空気が部屋に満ちる。

担当医も、むやみに割り込むことはせずに、

そこで、いい加減キレると思っていたが、意外にも母親は落ち着いていた。

「……わかった、そこまで言うなら考えるわ」

大喧嘩にならずに済んで、ちょっとホっとする。

「ただし、自分で計画を立てて、自己責任で行動すること。体調が悪いと感じたら、無理せずすぐに近くの病院に行くこと。わかった?」

僕の回答に迷いはなかった。

「ああ、わかったよ母さん」

すでに頭の中は、これからの計画を考えるのに忙しくて、それ以上の会話は入ってこなかった。

「申し訳ありませんが、息子の一時退院をー」

こうして、早くも僕の旅は始まりを告げた。

このときは、旅が終わったら、途中で有事が起きたら。そんなことは一切考えていなかった。ただ、楽しみという思いでいっぱいだった。

そして


『最期』の旅が、始まった。


                  *


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