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短編小説「余命」  作者: 高山 和義
第1章 終わりへ向かう、すべての始まり。
4/12

その3

病名不明

それが担当医より母親と僕に告げられた言葉だった。

「病名……不明?」

母親が唖然としたように言う。

「はい。現段階ではどんな病気かを特定することが出来ておりません。目立った症状もなく、吐血して倒れて意識を失って以降、なんの症状も出ていません。いくつか簡易的な検査をいたしましたが、特定までには至っていません」

そんなことがあるのか。

「詳しくは今後の精密検査をしてみないことには何とも申し上げられません。少なくとも一週間程度は入院が必要になります」

へぇぇ。

自分のことなのに、まるで他人事にように聞いていた。

「……わかりました」

深刻そうな顔で母親がうなずく。

その後の事務的な話は無視した。どうせ自分が聞いても意味のない話だ。

ぼんやりと過ごしているうちに話は終わり、「息子を、お願いします」と言って母親が立ち上がる。

つられるように僕も立ち上がり、軽くお辞儀をして部屋を出て行った。

廊下を歩く二人の間には重苦しい空気が流れていた。

実際、病名がわからないと言われて、まっさきに連想するワードは「治療不可能」だった。

そりゃそうだろう。病名が分からなければ治療法も確定しない。治療法が確定しなければ、対症療法をひたすら続けるか、さもなくば悪化して死ぬしかない。

そっかぁ……、病名が分からなければ死ぬのかぁ……。


不思議と心は落ち着いていた。


帰るね、と母親が言って、うん、と僕が返す。

全てが始まった日は、あっけなく終わった・


                  *

翌日から、いろんな検査を巡った。

いちいち何を受けたかも覚えてないし、覚えたくもない。

カタカナの羅列のような検査名をいちいち聞かされ、そのたびに病院内を旅した。

でも一日一回やるかどうかだから、忙しくはなかった。

病室に帰ってもすることはなく、電波が使えないのでスマホもただのゲーム機だし、読書もすぐに飽きてしまった。

ただ、その中で一つ気になったものがある。

それは、病院の待合室に置いてあった雑誌にあった。

その雑誌には、旅行ガイドのような特集が載っていた。病院に置くには冗談がきつ過ぎると思ったのは僕だけではないだろう。

その特集の中のひとつに、僕はとても惹かれた。

「下灘」だった。

ほかのグルメや華やかな観光地には目もくれなかった僕が唯一気になったものだった。

写真には、背景が真っ青で屋根とプラットホームだけの駅が写っていた。

首都圏に住んでいる僕からは考えられないほど、簡素で質素な駅舎。でもその佇まいには不思議と惹き込まれるものがあった。

背景は海と空と雲、ただそれしかない。

それしかなかった。それだけで十分だった。

僕は、ここに行こうと決めた。もちろん、明日にでも。

―死ぬ前に、この景色を一度は見ておきたいと思ったんだ。

                   *

最後の検査が終わり、検査担当の医者に話を切り出したのが最初だった。

「あの、一つお聞きしたいことがあるのですが」

「なんですか?」

「一時退院って、できますか?」

「一時退院ですか。あなたの病状を詳しくは知らない私にはなんとも言えませんが……。担当医に相談してみては?可能性は低いと思いますが」

「わかりました。ありがとうございます」

次に担当医と会うのは……、検査結果を聞く時か。母親もいるだろうが、その時に聞いてみよう。

部屋に戻ってから、もういい加減見飽きた窓の景色を眺めながら考える。

あの駅には、下灘には、どうやって行くのだろう。

場所は愛媛県と書いてあった。愛媛といえば四国地方、少なくとも東京よりはデカいはずだ。

小学校高学年の時に散々教え込まれた四国~本州連絡三ルートを、ふと思い出した。

橋が三本もあれば高速バスくらいは走ってそうなものだが、電車は分からなかった。飛行機は高いし、昔からバスに関しては乗り物酔いがひどいので高速バスはこっちから願い下げであった。

だとしたら……、あとは鉄道しかない。だが、そんな都合よく走っているものだろうか?

そこまでは小学校で習っていない、どっかにインターネット使えるパソコンでもあったら続きを調べることにしよう、と結論(?)づけた。


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