プロローグ
磯崎 淳、21歳。
前の職業はしがないバンドマン兼フリーター。今はと言うと…
4月14日。
その日は俺の彼女の誕生日だった。
「淳!今度はペットショップにいこう!」
彼女の名前は丸井 桜、21歳。俺の彼女だ。
とても大事な可愛い、可愛い彼女。
性格はほんわかしていて、少し天然。
でもそこが可愛い。いや、そこも可愛い。
その日はウインドウショッピングデートをしていた。
本当は遊園地とか、高層ビルの最上階でディナーとか、ちゃんとお祝いしたかった。
でも、バンドマン兼フリーターの俺にそんなお金があるはずもない。
桜には悪いと思ったが、桜は笑顔でこのデートを提案してくれた。
「そんなにはしゃぐと危ないぞ?」
「えっ?なんで?」
丸くて大きな瞳が俺を見つめる。
「変な男に…さらわれちゃうとか!!」
「ないない!私そんな可愛くないし!」
「そんなことない!桜は可愛いよ!!」
なんでも口に出てしまう俺。
顔を真っ赤にする桜。
わかりやすいなー。
「そっ、そんなことない!!それに私、結構強いんだよ?」
シュッシュッと言いながらシャドーボクシングをする桜。
「いやぁ……」
弱そー……
「って、そんなことはいいから!早く見に行こうっ!」
桜は俺の手を引いて走り出した。
桜は俺にとって太陽のような存在だ。
明るくて、優しくて、あたたかい。
彼女なしでは俺は生きていけないと思う。
それくらい大切な、大好きな自慢の彼女だ。
だから俺はその日、桜にプロポーズをする。
…はずだった。
夜になり、俺の家に向かう道のりを歩く。
家に帰ったら勝負だと自分に思い聞かせ、ポケットの中の箱を握りしめる。
普段おちゃらけた性格の俺だが、決めるときはビシッと決めないと。
右側にいる桜に目をやる。
桜はルンルンで歩いていた。
すると、カサカサッと道の右側からなにか物音がした。
桜が歩みを止め、物音のした方を見つめる。
そこには街灯が少なくてよく見えないが、黒猫がいた。
「ねこー!淳!ねこだよー!可愛いー!」
「ほんとだ、可愛いな!」
その時、黒猫が俺の方をギロっとみて笑った気がした。
「なんだこの猫ー!いま笑った気がする!見たか?桜!」
と隣にいる桜に話しかけたが、桜はいない。
猫もいつの間にかいなくなっている。
なにかを感じた俺は焦って辺りを見渡した。
でも、目に入ったのは衝撃的な光景だった。
黒猫は一瞬のうちに走り出して道路に出ていたようで、それを桜は追いかけている。
そして、桜のすぐ横には大きなトラックが走ってきていた。
「桜!!」
鳴り響くクラクションと鈍い音がした。
本当に一瞬の出来事でよく覚えていないが、
どうやら俺は桜を庇ってトラックにひかれたらしい。
どうしたらいいか考える前に体が動いて、桜に体当たりをしたんだと思う。
「淳…ごめんなさいっ…」
桜が俺を抱きしめながら泣いている。
声すら出ない俺は最後の力を振り絞り、桜の涙をぬぐった。
桜には、笑っていて欲しい。
そう思いながら俺は微笑み、目を閉じた…。