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ニコ研!  作者: ああああ
立花 美華編
6/14



「お前さぁ、なんで俺以外の奴と話す時あんなガッチガチになったり中二病爆発させたりすんだ?」



明彦は呆れた様子で隣を歩く奏に言う。


時は放課後。


成り行きと言うか、当たり前と言うか、奏はニコ研に入部することになった。


故に、同じクラスである二人は、こうして一緒に部室へ向かっているのである。



「しょっ、しょうがないだろ!


俺、何喋っていいのか分かんないんだよ……!!」



明彦の問いに、奏が悔しそうに答える。



「俺の時はあんなにベラベラ喋ってるくせによく言うよ」



「おっ、お前は……ほら、ちゃんと友達って言ってくれただろ……?


だから、その……安心して話せるって言うか……」



奏が僅かに頬を赤らめ、恥ずかしそうに言う。



「あほ。


俺はあくまで練習台だぞ?


他の人にもおんなじように振る舞えなくてどうするんだ」



「分かってるけどよぉ……」



「これじゃ友達百人なんて無理だな」



明彦がけらけらと笑いながら部室のドアを開く。



「むぅ……」



そんな明彦の態度に、奏が不満気に頬を膨らませる。



「会長、神崎連れて来ましたよ」



そう言いながら明彦が部室に入る。


奏も一端顔を戻してその後に続く。



「おお来たか」



いつもの一番奥の扉と向かい合う場所に座っていた薫が嬉しそうに言う。


部室にはもう既に全員が集まっていた。



「まぁ、座りたまえ」



薫に促され、明彦は定位置の雪菜の左隣に、奏は薫と向かい合うような場所に座る。



「では、単刀直入に聞くが、毎日学校には来れているか?」



「ああ、大丈夫だ。


まだ俺の邪気眼はもってくれている」



「ありがとな」



まるで面接のような薫の質問が続く最中、明彦が小声で隣の雪菜に言う。



「なにが?」



雪菜は小声でそう返しながら興味なさそうに小説のページを捲る。



「ほら、お前のおかげで上手く神崎のこと説得出来たし」



「あれは本来私がやるべき事。


私は私の責任を全うしただけ。


別に広瀬君のためじゃない、カンチガイシナイデヨネ~」



「なんでテンプレの部分だけ棒読みなんだよ……別にいいけど……」



明彦がジトッとした視線を雪菜に送る。



「いや、広瀬君が言ってほしそうだったから」



「俺のどこをどう見たらそう見えるんだ?」



なんだか小馬鹿にされたような気がして、明彦は少しムッとした様子で尋ねる。



「……全部?」



「考えてから言うなよ!


なんかリアルだから!」



一度まじまじと明彦の体を眺めてから答える雪菜に、明彦が目尻に涙を溜めながら反論する。



「……?


どうしたんだ広瀬君」



思わず声を大きくしてしまった明彦に、薫が不思議そうに顔を向ける。



「いっ……いえ、なんでもないです。


すいません……」



そう言ってから明彦がチラリと雪菜を一瞥すると、 彼女はなにくわぬ顔をして本を読んでいた。



(こいつ……)



「時に広瀬君」



明彦が静かな怒りを燃え上がらせていると、不意に薫が話をふる。



「はい」



「君は勉強の成績が悪いようだが、今度の中間テストは大丈夫かな?」



「……え?」



薫の言葉に、明彦の思考が急停止する。



(チュウカンテスト……?


なにそれ、美味しいの? )



「会長、こんなアホみたいな表情してる奴が勉強なんてしてる訳ありません」



硬直する明彦を見た雪菜がすかさずそう告げる。



「うっ、うっせぇ!


だっ、大体お前だって勉強してねぇじゃねぇか!」



雪菜の言葉で正気にもどった明彦は、冷や汗を垂らしながら焦った様子で雪菜を指差す。



「私は家でやってるから」



雪菜が無表情のまま答える。



「ぐっ……


じゃあ神崎は?」



明彦は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、標的を奏に変える。



「残念、俺もだ」



奏がさっきのお返しとばかりに嘲笑を浮かべる。



「せっ、先輩方は!?」



半ば泣きそうな勢いで明彦が上級生三人を見る。



「私は普段から予習復習を欠かさないからな。


テスト前にそんなに慌てて勉強はしない」



(典型的優等生!!)



「わっ、わわわ私は、そんなに勉強しなくても、その……分かるから……


テスト前はちょっと復習する、くらい……かな……?」



(根っからの天才肌!!)



薫と美華が続けてそう言うと、今度は誠が明彦にパソコンのディスプレイを見せる。



(進研ゼミ!!)



「はぁ……君、本当に大丈夫か?


テストはゴールデンウィーク明けだぞ?」



一つ一つに衝撃を受けたような表情を浮かべる明彦に、薫が呆れた様子で告げる。



「え゛っ……!?


ゴールデンウィーク明けって、二週間切ってるじゃないですか!」



明彦は頭の中でカレンダーを思い浮かべ、驚愕の表情を見せる。



「そうだとも。


だからこうして確認をしているのだ。


うちの高校は容赦ないからな。


適当にやってると草苅君のようになってしまうぞ」



「えっ……?」



明彦が驚いた様子で誠を見ると、誠がわざとらしく溜め息をつく。



「ちっ、余計な事言いやがって……これだから女は……


そうだよ、俺は本当なら今三年生だ。


二年のテストでずっこけて目下留年中」



「「「えっ、ええ゛ぇぇぇぇぇ!!??」」」



その発言には、明彦は勿論、雪菜と奏も驚愕の声を上げる。



「まぁせいぜいこうならないように気をつけるんだな」



誠は面倒臭そうにそう言うと、液晶画面に視線を戻す。



「ああ、あとうちの学校の赤点50点以下だから。


付け焼き刃で乗り切るのは不可能だぞ」



そして、少しパソコンを弄ったところで、思い出したように付け足す。


誠が留年しているという事実。


更に赤点ライン50点というハードルの高さに、すっかり明彦の顔は青ざめていた。



「たっ、頼む冬野!


俺に勉強を教えてくれ!」



明彦が泣き付くように頭を下げる。



「やだ」



「ひどい!」



抑揚のない声で一蹴され、明彦の目尻に涙が浮かぶ。



「なんでだよ。


神崎の時は協力してくれただろ?」



明彦が声を潜めて言う。



「それはさっきも言った筈。


私は私の仕事をしただけ」



明彦に合わせて、雪菜も口元を本で隠しながら応える。



「メールの時はあんなに優しかったのに……」



明彦がそう呟いた瞬間、雪菜の顔が一気に紅潮する。



「――っ!!」



「あぐっ……!!」



雪菜が降り下ろした本の背表紙が明彦の脳天で乾いた音を立てる。



「ちょっ、なにすんだ……」



「あのメールの事は忘れて。


出来ないと言うなら私がやってあげる」



物凄い威圧感を放ちながら雪菜がバッグをまさぐり、分厚い英和辞典を引っ張り出す。



「はい……すいません」



恐怖で硬直した表情のまま明彦が言う。



「因みに、神崎は?」



雪菜に拒否され、藁にもすがるような気持ちで明彦は目尻に涙を溜めながら奏の方を向く。



「生憎引き籠ってた分があるからな。


他人に教えてやれる程の余裕なねぇよ」



しかし、奏の返事は素っ気ない。



「ヤバい……マジでどうしよう……」



明彦が絶望した様子で額を軽く机に打ち付ける。



「だったら美華に頼むといい」



「え……?」



「えぇっ!?」



薫の提案に明彦と美華が驚いたような声を上げる。



「美華、君はそんなに切羽詰まっている訳ではないのだろ?


だったら、ここは一つ広瀬君の力になってはくれないか?」



「でっ、でも……」



「嫌か?」



煮え切らない美華に薫が尋ねる。



「えっ?


いっ、いいい嫌じゃ……ないよ……?


でも、ほら……わっ、わわわ私、こんなん――」



「良かったな広瀬君、了承は得たぞ」



「いや、今のでいいんですか?」



言葉の途中で明彦の肩に手を置く薫に、明彦が困惑した表情を浮かべる。



「かっ、薫ちゃん!?


私、まだいいとは……」



明彦同様に美華も困惑した様子で言う。



「でも嫌ではないのだろ?」



「そう、だけど……」



「だったらそれでいいではないか。


なにか問題あるのか?」



「はうぅ……分かったよ……」



(なんか今日の薫ちゃん、ちょっと強引……)



畳み掛けるように言う薫に、とうとう美華が折れる。



「立花先輩、ご迷惑とは思いますがなにぞとよろしくお願いいたします」



「えっ……!?


いやっ、その……そっ、そそそそんな、私の方こそ迷惑かけるかもだし、いいって……」



仰々しく頭を下げる明彦に、美華があたふたしながら応える。



「あっ、それで連絡先知らないと色々と不便だと思うので……


学年違いますし……」



明彦は自分の携帯電話を取り出し、直ぐに赤外線通信が出来るような状態にしてから美華に渡す。



「そっ、そそそそうだね。


ごっごめん、ちょっと待って」



余程慌てていたのか、バッグから取り出した携帯電話をまるで鰻の掴み取りのように手から滑らせる美華。



「ちょっ、先輩落ち着いてください」



明彦がそう言い、美華は漸くその手の内に携帯電話を落ち着かせる。


斯くして連絡先の交換が終わり、勉強の面はなんとかなりそうだが、明彦には少し引っ掛かる所があった。


そこで、最終下校時刻間際、各々部室を去ろうという時に明彦は薫を呼び止めた。



「会長、ちょっといいですか?」



「ん?


どうした?」



部室にはもう既に明彦と薫、そして今まさに部室から出ようとしていた雪菜だけしか残っていない。


明彦と薫の会話が気になった雪菜は、ドアノブを握ったまま耳をそばだてる。



「今日はどうしたんですか?」



「……?


なんの話だ」



唐突な質問に薫が首を傾げる。



「立花先輩の事ですよ。


あんなごり押しみたいな頼み方、会長らしくないじゃないですか」



明彦が僅かに口調を強くすると、薫がやれやれと言わんばかりに溜め息をつく。



「まぁ私も後で言うつもりだったのだがな……


実は、神崎君を救った君の実力を見込んで頼みがある」



「頼み……?」



明彦が怪訝そうに繰り返す。



「ああそうだ。


頼む、美華を、彼女を変えてやってはくれないか?」



薫が明彦の手を握り、真っ直ぐにその目を見ながら懇願する。



「えっ……?」



照れてしまうような顔の近さもさることながら、それ以上にその突拍子もないお願いが明彦の頭を真っ白に塗り潰す。



「いやいやいやいやいや!!


むっ、無理ですよ!」



数秒の間があってから明彦が絞り出すように声を上げる。



「無理でもいい。


ただ、やるだけの事はやってほしいんだ。


美華は一年生の頃から変わろうと努力してきた、人見知りを克服しようと積極的に他人に話し掛けていたんだ。


きっともう一押しで彼女は変われる。


だからどうか、神崎君を変えたその手腕を美華にも振るってはくれないか?」



薫の話は十分に理解できた。


友達を思う純粋な優しさが言葉の端々から感じられたし、美華があれでも一応努力しているのだという事も分かった。


明彦も出来ることなら協力したいと思った。


が、それ以前に薫は重大な勘違いをしていた。



「えっ、えぇっと……」



明彦は考えるふりをしてドアの前に立っている雪菜に視線を送る。


そう、神崎を部屋から出せたのは雪菜の協力があってこその事だった。


寧ろ神崎を変えたのは雪菜と言っても過言ではない。


その雪菜はというと、明彦の視線に気付いているのか否か、その場でドアを見つめたまま動かない。



「かっ、会長。


俺なんかよりも冬野に頼んだ方がいいんじゃないですか?


同じ女子ですし……」



バタン――


明彦が言い終えるよりも早くドアが開閉される音が部室に響く。


気になってドアの方に目をやると、そこにはもう雪菜の姿はなかった。



(にっ、逃げられたぁぁぁ!!)



「頼む広瀬君。


もう君しかいないんだ」



心の中で表情を暗くさせる明彦に追い撃ちをかけるかのように薫が手に力を籠める。



「はぁ……分かりました。


やれるだけやってみます」



雪菜に逃げられ、薫には僅かに潤んだ瞳で見つめられ、明彦が溜め息と共に折れる。



「本当か!?


ありがとう、やはり君に頼んで正解だった」



薫はパァッと表情を明るくさせると、まるで幼い子供のような無邪気な笑顔で喜ぶ。



「いや会長、そうゆうのは終わってから言うものですよ……?」



不安と面倒臭さと薫が喜んでくれたという気持ちが入り交じり、微妙な表情を浮かべながら明彦がツッコミを入れる。




―明彦自室―



「どぉすうんだよぉ~


立花先輩の人見知りを克服させるなんて俺に出来るわけねぇじゃん」



明彦は背の低いテーブルに突っ伏しながら早くも弱音を吐く。



『冬野さん、お願いします。俺を助けて下さい』



一人で悶々としててもなにも起きないので、明彦は取り敢えずメールで雪菜に応援を要請する。



『何の話?』



少しの間があってから雪菜の返信が返ってくる。



『お前、さっきの話聞いてただろ?立花先輩の事だよ』



『知らない。だから手伝わない。協力もしない』



『おい、お前絶対知ってるだろ』



『ごめん、今勉強中だから。もう返信できないかも、金輪際』



(こっ、こいつ……


ってか、金輪際って酷くね?)



明彦は携帯電話の液晶を見ながら怒りと悲しみが入り交じったような表情を浮かべる。


そもそも雪菜はあの返信速度で本当に勉強しているのだろうか。


試しに『おいこら、逃げるな』とメールを送ってみたが、やはり返信は来なかった。



「はぁ~


マジでどうしよう」



テストの件といい、美華の件といい、やることが多すぎて、重すぎて、明彦の精神はもう既に疲労困憊となっていた。


携帯電話をテーブルの上に置き、明彦は再びそこに突っ伏す。


疲れもあったせいか、明彦に睡魔が襲い掛かる。


が、ちょうど微睡みかけたそのとき、突然携帯電話の着信音が鳴り響く。


明彦は反射的に体を起こし、携帯電話の画面をタップして通話状態にする。



「もしもし」



「…………」



明彦から言葉を掛けたが返事はなかった。



「もしもし?」



「…………」



やはり返事はない。



「もしも~し」



「…………っ」



今度はなにかを言おうとしたのか僅かに声が聞こえた。


しかし、これでは全く意味がわからない。


悪戯電話かと思い、明彦は着信相手を確認する。


立花 美華


そこには確かにそう表示されていた。



(立花先輩かよ!!)



「あの、立花先輩?


どうしたんですか?」


明彦は心の中でツッコミを入れ、呆れ気味に尋ねる。



「あぅ……あ、ああああのね。


その、わっ、私が勉強教える事に、なった……でしょ?


それでね、あっ、あの、打ち合わせとか、してなかったし……」



ガッチガチに緊張した様子で美華が答える。



「ああ、べつにいつでもいいですよ。


先輩の空いてる時間で構いませんから」



努力してこれということは元はどれ程なのか、という疑問を抱きつつ明彦が言う。



「そう……うん、分かった。


なにか分からないことがあったらいつでも言ってね。


でっ、できる限り答えるから……」



「はい、分かりました」



「ごっ、ごごごごめんね、こんな、夜中に……


じっ、じゃあ、おやすみ」



明彦は「は~い」と相槌を打って電話を切る。



「はぁ~……」



心の中でのハードルの高さが急激に上昇したのを感じ、明彦は疲労感たっぷりの溜め息をつく。

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