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ニコ研!  作者: ああああ
神崎 奏編
5/14


―翌日―


一時限目が終わった休み時間。


雪菜はなんとなく明彦の様子を見に行こうと廊下を歩いていた。



「確かE組って言ってたよね……」



雪菜は“1-E”と印字されたプレートを見ながら呟くと、なるべく音を立てないようにそっと戸を開く。


直ぐに中には入らず、目だけで明彦を探す。


すると、窓際の後ろから二番目の席に明彦がいた。


明彦はシャープペンを握り、机に突っ伏していた。


窓から斜めに射し込む日射しがその体を白く照らし、まるで死んでいるようである。



「ひっ、広瀬君!?」



その姿に驚いた雪菜が、思わず声を上げる。


しかし、そのせいでクラス中の生徒の視線が雪菜に集まる。


雪菜はその視線に耐えられず、顔を真っ赤にさせて脱兎の如くその場から走り去る。



「……ん?


なんだ……?」



教室のざわめきに気付いた明彦が眠気眼で辺りを見回す。




(うう……恥かいた……)



昼休み、雪菜は弁当をつつきながら表情を暗くさせていた。



(広瀬君大丈夫かな?


なんか燃え尽きた感じだったけど……)



雪菜はそんな事を思いつつ、最後に残しておいた唐揚げを口に入れようとする。


丁度その時。



「おい、冬野ぉ!」



突然自分の名を呼ばれ、肩を跳ね上げながら雪菜が驚く。


そして、その反動で唐揚げがコロリと床に墜落する。



「あ……あうぅ……」



「どうした?


冬野」



不慮の事故により落命した唐揚げを涙ながらに弔う雪菜に、明彦が声を掛ける。



「こっちの台詞!


なんなのよ急に!」



雪菜が恨めしそうに明彦を睨む。



「ん?


クラスの奴の話だと、冬野が俺を探している事になってるんだけど……


なんか一限の休み時間に来たとか来ないとか。


あれは嘘か?」



「あっ、ああ~……


うん、嘘じゃない」



雪菜は申し訳なさそうに視線を斜め下に落とす。



「で、なんの用だ?」



「あっ、あの……神崎さんの件、進んでるかなって……」



「おう、順調だぞ」



明彦は胸を張って笑ってみせる。



「あんまり、その……無理、しないでね。


さっき燃え尽きた感じだったし……」



「いや、ありがたいけど言うの遅くね……?


今日の半分以上は終わっちゃったけど……」



「うっさい馬鹿!


だから一時限目の休み時間に行ったんじゃない!」



微妙な表情を浮かべる明彦を雪菜が睨む。



「はいはい、寝てて悪かったですよ」



明彦がやれやれといった様子で応える。


それを聞くと、雪菜は残りの弁当を掻き込み、後片付けを始める。



「もう言うことないからどっか行っていいよ。


って言うかどっか行って」



雪菜の表情は、いつもの気怠そうなものに戻っていた。



「あっそ」



明彦は無愛想に返事をして踵を返す。



「心配してくれてありがとな。


俺、今日は頑張るから」



明彦は顔を雪菜の方に向けてそう言うと、そのまま教室を後にする。



「え……?」



去り際に放たれた一言に、雪菜が慌てて視線を向ける。


が、そこにはもうその姿はなく、雪菜はさっきまで明彦がいたであろう廊下を暫くの間眺める。




「昨日一応考えたのだが……」



放課後、神崎宅に向かう途中で薫が言う。



「何をですか?」



明彦が尋ねる。



「いや、この件について君に一任するのはやはりおかしいのではないかと思ってな。


なんだかんだ言って君を指名したのは私だ。


正確には私の力が及ばなかったが故、やむ無く君に代行してもらった。


そうだろ?」



「ええまぁ、そうかもしれませんね」



薫から同意を求められ、明彦はやんわりと肯定する。



「うむ、全くもってその通りだ。


本来ならば私は広瀬君があのような行動に出るという事を予測するべきだったのだ。


しかし、私はそれが出来ずに君を指名してしまった。


これは明らかに私のミスだ。


なのに私は自分の事を棚に上げて君に責任を押し付けた。


それでは広瀬君があまりにも不憫だと思ってな」



(うっ……


会長の言葉が地味に胸に刺さる……)



嘆くように言う薫に対し、明彦は表情を暗くさせる。


「この前の件はなしだ。


私がなんとか話を合わせるから、君はサポートに廻ってくれ」



それを聞いた雪菜が、戸惑ったような表情を浮かべる。



「すいません会長。


それには従えません」



雪菜の表情を見た明彦が余計に力を込めていい放つ。



「なぜ?」



「やっぱりあれは俺の責任だと思います。


それに、責任云々の前に神崎を助けてあげたいんです」



「うむ……しかしだな……」



「まぁぶっちゃけもう話す事考えちゃったんでやらせて欲しいだけなんですけどね。


これがダメだったら俺は会長の指示に従いますんで……」



煮え切らない薫に明彦がそう付け足す。



「うん、そうだな。


『失敗を知らぬ者は大きな成功を収める事はできない』とお姉様もよく言っておられた。


よし、今日は君に任せよう」



薫は何度か頷き、明彦の肩に手を置く。


神崎宅に到着し、流れ作業の如く奏での部屋の前までニコ研のメンバーが移動する。


コンコンコン――


明彦がドアをノックする。



「また来たのか……」



少し不機嫌そうな声が返ってくる。



「うん」



「…………」



明彦の声を聞いたからか、奏が黙り込む。



「えっと……まず昨日の事は謝るよ。


あんたの気持ちも考えずにあんな事言って本当に悪かった。


こんなんで許されるもんじゃないとは思うけど、今日の今だけは水に流して俺の話を聞いて欲しい」



吟味するような重苦しい間が数秒。


あまりの緊張感に明彦が生唾を飲み込む。



「……分かった。


聞いてやる」



「ありがとう」



明彦が安堵の溜め息をついて続ける。



「昨日ずっと考えてた、どうする事が一番いいのか。


それこそ寝るのを忘れるくらい」



その言葉を聞いた雪菜が申し訳なさそうな表情を浮かべる。



「それで思った。


お前、勘違いしてないか?」



「……?


どういう事だ?」



「お前、こう思ってんだろ。


この部屋から出たら自分を変えなくちゃいけないってな。


でもな、そんな必要なんてない。


お前がこれ以上頑張る事もないし、今まで作り上げてきたであろうその世界もそのままでいい」



「なんだ……わざわざ考えて来たなんて言うから期待してみれば……


前と一緒じやないか。


そんな言葉腐るほど聞いてきた。


変わらなくていい、そのままでいいなんて只の綺麗事だ。


そのままじゃ駄目だからこうなってんだ。


変わろうと思っても変われないからこうなってんだ」



「当たり前だ。


こんなとこで引き籠ってて変われるわけない」



「なっ、てめぇ……!!


お前に俺のに何が分かる!!」



淡々と言う明彦に、奏の怒声が返ってくる。



「俺はなにも間違った事は言ってない。


どんなに妄想を広げても、どんなに周りとの関係を絶って自分の幻想に浸っても、結局そこにはお前以外の誰もいないんだ。


そんな場所でお前はどうやって他人と関わる術を見つけるつもりだ?」



「――っ、黙れ黙れぇ!!


くそ寒い説教垂れやがって!!


分かるぞ、お前今可哀想なものを見るような目で俺を見てんだろ!!


俺の事を救ってやるとか思ってんだろ!!


俺を外に出せればそれでいいくせに、偉そうに、俺の事を全部理解したみたいにうざったく笑ってんだろ!!」



「笑ってなんかない。


それに、俺はお前の事を救おうなんて思ってないし、救えるとも思ってない」



「……え?」



予想外の返答に、奏は拍子抜けたように声を漏らす。



「お前は俺をなんだと思ってんだ?


遊ぶ事目的でこの学校に入学して、そんで一週間で授業に付いていけなくて孤立した男だぞ?


お前を救う力なんざ俺にはない。


寧ろ俺が救って欲しいくらいだ」



「じゃっ、じゃあお前はんなんだ!!


なにがしたいんだよ!!」



明彦の意図が読めず、奏が困惑気味に言う。



「俺はお前と友達になりに来たんだ。


これは本気だ。


前も言っただろ?


お前の話し方嫌いじゃないって」



「そんなの只の社交辞令だ。


実際に俺と話せばお前だって嫌になるに決まってる。


俺は、その……人と話すのが苦手なんだ……」



「苦手なら練習すればいい」



諦めたように言う奏に、明彦がそういい放つ。



「練習台なら俺がなってやるし、場所ならうってつけの場所がある」



「広瀬君……まさか……」



明彦の言おうとする事を察したのか、薫がそう呟く。



「はい。


ニコ研です」



明彦は頷き、奏にも聞こえるように答える。



「うちの部活は人間関係とか、コミュニケーションの取り方を研究する部活なんだ。


俺だってさ、まだこの学校の友達いないんだ。


だから一緒に練習して、一緒に友達増やしていこうぜ」



「…………」



考えているのか、それとももう聞く気が失せたのか、奏からの返事は返ってこない。


「ああ、何回も言ってるけど、性格とか、人間性とかを変えろって言ってる訳じゃない。


ただ、お前の居場所がこの部屋から取り敢えずはニコ研の部室に移ればいいかなって。


その上で、お前が人と接する術を身に付けられたらいいなって。


そう思っただけだ。


でもまぁ、無理強いはしないよ。


ずっとそこで一人で過ごすのか、外に出てきて俺達と楽しくやるのか、好きな方を選べばいい」



「そんな言い方、ズルいよ……」



僅な沈黙の後、奏の声と共に開かずの扉がゆっくりと開く。



「そんな風に言われたらもう出るしかねぇだろ……」



中から現れたのは、暫く外にでていないせいか、ボサボサの髪を肩甲骨の辺りまで垂らし、ヨレヨレのスウェットを着た少女だった。



「……え?」



なぜかその姿を見た明彦の表情が固まる。



「今まで変に強がっててごめん……」



奏が肩を震わせながら謝罪する。



「でも……今までずっと怖かった。


俺はこのまま一生一人なんじゃないかって……だったら、最初っから誰もいない場所にいた方が楽なんじゃないかって。


でもやっぱり孤独は嫌だ!」



奏はとうとう大粒の涙を溢し始める。



「今までいろんな人に迷惑掛けていた事は知ってる。


でも、俺はただ、一緒にいるよって、お前は一人じゃないよって……そう、言って欲しかったんだ」



奏がまるでバランスを崩したかのように明彦に抱き付き、その胸に顔を埋める。



「だから、ありがとう。


一緒に頑張ろうって言ってくれて。


友達になろうって言ってくれて」



「えっ、ちょっ……!?」



「広瀬君、女子からの好意は素直に受け取るものだぞ。


狼狽えるなど男が廃る」



必要以上におろおろする明彦に、薫が微笑みながら言う。



「いやっ、その、そういうことじゃなくて。


神崎って女の子だったんですか!?」



明彦のその一言で、周りの雰囲気が 一気に氷つく。


薫の暖かみのあった微笑みも、まるで真っ白い壁を眺めているかのような無表情になる。



「えと……状況から察するに、君は神崎君を男だと思っていたのか?」



薫が信じられないといった様子で尋ねる。



「えっ、ああ、はい」



「ええっ!?


なんで!?」



これには奏の涙も引っ込んでしまったのか、奏が明彦の胸から顔を離し、驚いた様子で明彦を見る。



「えっ、いや、男口調だし……会長も君づけで呼んでたし……


あと、女子でここまで中二病拗らせる人もあんまりいないかな~って……」



「ひっ、ひひひ広瀬君、それは、あああああんまりじゃない……かな……?」



珍しく美華が少し怒った様子で言う。



「大体、声で気づかないのか?


私が思うに、神崎君の声は十分女性らしいものだとおもうのだが……」



それに続き、薫が呆れた様子で言う。



「いっ、いや、ちょっと声の高い男かと……」



「ちょっとってレベルじゃないだろ……


立花先輩の言う通り、本当に失礼」



雪菜が蔑むような目線を明彦に送る。



「う゛っ……」



自分の立場が危うくなり、明彦は具合の悪そうな表情を浮かべる。



「っていうかさ、俺、あいつは女だから喋りたくないみたいな事言った気がするんだけど」



「あ……」



誠の言葉に、明彦は思い出したように呟く。



「じゃあなんだ?


お前は俺が女だと知ってて男扱いしてたってことか?」



奏が明彦の体から離れ、溢れ出る怒りの感情を容赦なく垂れ流す。



「ちょっ、ちょっと待て神崎!!


冷静になれ、今の話からそうはならないだろ!?


大体、友達に男も女も関係ないだろ?」



その言葉に奏の中でなにかが切れる音がする。



「それは俺が男だって言いたいのか?


ああ゛ん?」



「いやっ、違う違う!!


今のはそう言う意味じゃなくて――」



物凄い剣幕で睨まれた明彦は、自分が墓穴を掘った事を悟り、必死に訂正しようとするが、もう時は既に遅かった。



「黙れぇ!!


クライム・ブレイカー!!!!」



奏の鉄拳が顔面にめり込み、明彦の体が力なく後方に倒れる。



「はぁ……


だからお前は友達ができないんだ」



惨めに鼻血を垂らす明彦を見ながら雪菜が大袈裟に溜め息をつき、呆れた様子で呟く。






―翌日―



「あ゛ぁ~昨日は酷い目にあった……」



朝、明彦は僅かに昨日の面影が残る鼻を撫でながら自分の席に座る。


リュックの中から教材やノートを取りだし、机の中へと移していく。


すると、突然廊下を走るような騒がしい音が聞こえてくる。



(朝っぱらからうるせぇな。


廊下は走るなって小学校ぐらいで教わんなかったのか?)



若干の苛立ちを感じながらも、明彦は我関せずといった様子で作業を進める。


スパァン――


が、それは銃声の如く鳴り響いたドアを開ける音により中断される。


肩を跳ね上がらせて驚いた明彦は、何事かと慌てて顔をそちらに向ける。



「ふはははは!!


悠久の時を経て、我再び教室に降り立たん!!」



そこには、昨日とはうって変わって髪を横に纏め、ロックなテイストの服を着た奏がいた。


理由はよく分からないが、左手に包帯を巻いている。



「おっはよぉ明彦!!」



困惑したような周りの反応など一切気にせず奏が歩み寄る。



「朝から騒がしいやつだな」



明彦が呆れ気味に言う。



「むぅ、わざわざお前に会うために走ってここまで来たんだぞ?」



「あれ、お前だったのかよ……」



ムスッと頬を膨らませる奏にジトッとした視線を送る明彦。



「廊下は走るなって小学校で教わんなかったのか?


まさか小学校から引き籠ってたとか言わないよな?」



「失敬な!


小学校ぐらいちゃんと皆勤賞取れたわ!


それに、俺だって小学生の時は友達だって……」



「いなかったんだな……」



言葉を詰まらせる奏に、明彦が同情したような表情を浮かべる。



「まぁ、兎に角廊下は走るな。


危ないからな。


それから朝っぱらから大声を出すな。


ますます周りから煙たがられるぞ?」



道具を移し終わり、明彦は頬杖をついて奏の方を見る。



「なっ、変わらなくていいって言ったのはお前だろ!?


あれは嘘だったのか!?」



「「嘘だったのか!?」ってお前……」



騙されたと言わんばかりの表情を浮かべる奏に、明彦がため息混じりに言いながら後頭部を軽く掻く。


「もう既に昨日とキャラが違う気がするんだけど……?


大体お前は変わりたいんじゃなかったのか?」



そして、怠そうに奏を指差す。



「むぅぅ……お前口だけは達者だな……」



「お前がバカなだけだろ?」



憮然とした表情の奏に、明彦が更に追い撃ちをかける。



「なっ、てめぇ!


お前落ち零れのお前なんかより100%俺の方が頭いいね !!」



「おまっ、それは禁句だろ!!


この中二病野郎!!」



「うっさい!


お前はそんな中二病野郎の友達なんだぞ!」



「お前こそいいのかよ、落ち零れと友達になっても友達なんか増えねぇぞ?」



「ふん安心しろ、友達百人出来たら真っ先に切り捨ててやる」



「へっ、無理だな。


やれるもんならやってみろ」



高圧的な笑みを浮かべる奏を明彦が嘲るように言う。



「てめぇ言ったな!


これか、嫌味しか言えない生意気な口はこれかぁ!


後で孤独にうちひしがれても知らねぇからな!?」



奏は明彦の頬をグイグイと引っ張りながら言う。


明彦は我ながら面倒な事を言ってしまったなと、少し後悔する。


しかし、奏の嬉しそうな表情を見て、まぁでもこれでよかったんだよなと、思い直す。


昨日まで引き籠ってた奴がこんな表情出来るようになった。


自分の言いたい事を素直に言えるようになった。


これは本当に凄い事だ。


寧ろ喜ぶべき事ではないのだろうか。


そう思うと、多少の事は許せる気がした。




が、


いくら 良い事を思っても、やはり痛いものは痛い。



「いだだだだ!!


ちょっ、おまっ、いふまでつねってんだ!!」



明彦の悲痛な叫びが朝の教室に響くのであった。

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