孤児院加入
こんばんは。朝倉です。
ちょっと短いです。
すいません。
まず二人の前に見えてきたのは古い城壁だった。街の外壁に高さこそ負けているものの、十二分に分厚いその壁はまだまだ現役で使用できそうだ。
そんな物に守られた孤児院を見たセバスは、思わずマリアンナに問いかけてしまう。
「マリアンナさん、孤児院ってあんなに厳重に守られている物なんでしょうか?」
「この街の孤児院は特別よ。だってあそこは元々砦だったんですから」
そう言ってマリアンナはこの街の歴史を語り始めた。
このタルトの街は元々王都に木材を供給する為に生まれた、どこにでもありそうな開拓村の一つにすぎなかった。村が出来た当初はすぐ近くまで森が迫っていた事もあり、猛獣や妖魔の類が繰り返し襲ってきた。この事に業を煮やした当時の国王がその村を砦として作り替えた上に騎士団を駐屯させた。これにより被害は激減し王都にも安定的に木材を供給出来たのだ。
やがて、戦争で武勲を示した貴族がこの街と周辺の土地を国王より賜り発展させて行く。その中でも木材の供給基地としての価値は変わらず、今では6つの村から木材を集める集積拠点としてより一層の重要度を持っている。
先代領主ロドルツォ・フォン・ジジーネの時に大火が起き、その後の復興に伴い行政としての機能を街の中心に新しく作った役場に移し、自身の住居も街の北側に新設した。この時それまで役所兼邸宅として利用されていた砦を、孤児院として再利用したのだ。大火直後は300に迫る量の孤児がいた事もあり、これ位の規模でないと収容できなかったという事もあり、他の街の孤児院よりも規模が大きい。とはいえ幸いな事に近年は大規模な妖魔の侵攻も無いので偶発的、もしくは捨てられた子供達が30人ちょっといるだけになっている。
孤児院院長マリオ・ドゥルベッコはもはや習慣となった日誌を書き綴っていた。彼が教会の司祭としてこの街に赴任したのは、20年近く前になる。60を越え70も見えてきた時に後任の司祭が来た為引退した。その後その人柄を見込まれ孤児院の院長として余生を過ごしている。
そんな彼の元に孤児を連れて役人が来たという。時刻も時刻だ。彼は書きかけで乾いていない日誌を開いたままにし、応接間に向かった。
マリオが応接間に向かうと、そこにいたのは見た事も無いような格好をした孤児がいた。
かなり上物物の熊の毛皮を纏いつつも、その下に来ている服はボロの麻服だ。何ともチグハグは服装の少女はマリオが思わず目を丸くしてしまった。そしてその少女はマリオが入って来ると、それまで腰掛けていた椅子から立ち上がりしっかりと一礼した。この行為によりマリオ感情は驚きから混乱に変わった。
一般的にこの孤児院に来る者は教育や礼儀、一般作法といった物を持っていない。教えられるような階級の孤児は、大抵の場合親類が引き取ってしまうからだ。結果として多くの孤児は貧民層の子供が多くなる。見た目は着ている物は(毛皮を除き)貧民層の子供で立ち振舞いは中流階級以上の子供。
今まで数多くの孤児を引き取り、育ててきたマリオにとっても初めてのケースだったその孤児は、その混乱を治める一撃を放った。
「今日からお世話になりますセバスです。4つになります。男です」
「う~~~~ん」
すなわちマリオの思考回路を停止させてのだ。
フリーズしたマリオを尻目に、マリアンナは近くにいた職員を捕まえてセバスに孤児院のルールを教えるように頼んで帰って行った。いい加減帰らないと市場が閉まって夕食を作れなくなりそうだったのだ。
マリアンナ・リコラッテ、役所で働く新人受付嬢は意外な事に自炊派だったのだ。
マリアンナに捕まった男はマリオの意識が帰ってこないかと、再起動を試みるも効果が無いのでセバスの手を引いて食堂に移動をしながら教え始めた。
孤児院での集団生活は基本的に外泊を認めない。外泊する場合ましくはしてしまう可能性がある場合は、あらかじめ院長もしくは副院長に許可を取る事。
日の出前に起きて孤児院を掃除する事。
食事は朝夕の2食。昼ごはんが食べたい場合は自分で稼いで食べる事。
既定の金額を稼ぐ為に各ギルドに登録する際は無料になる事。ただしどのギルドでも可能な限り最下位ランクの仕事を消化する事。
稼いだお金は任意の金額を孤児院で預かる。各自が稼いだお金は自由にしても良いが完全に自己責任である事。
その他こまごまとしたルールもあるが、周りに習えとの事。
そう言って食堂についた男は扉を開け、職員を待って各自席についていた子供達に声をかけた。
「全員注目!! 今日新しい兄弟がまた一人増えた!! 仲良くするように!!」
「「「「「は~~~~い!!」」」」」
「えっ!? 兄弟って何!?」
かくしてセバスは総勢33人の新しい兄弟として迎え入れられた。