セバスの立場
思った以上に物語の進みが遅くて困っている朝倉です。
毎日上げている作者の皆様には頭が下がります。
職員が帰っていく役所の中で、新たに一室の談話室に明かりが灯された。中にはマリアンナとセバスの二人だけがいる。
セバスが天井に輝く光体に目を向けていると、マリアンナが切りだした。
「セバスくんに大事なお話があります」
キリッという擬音語が背後に見えそうなマリアンナにセバスは思わず茶々を入れてしまう。
「結婚を前提としたお付き合いですか? ……ええっと、まずは友人からでお願いします」
「違います。私はまだ急ぐような年齢じゃありません」
「急ぐような年齢だったらしたんですか?」
「そうですね。……一考の余地はって違います。この話題から離れてください。いいえ離れます」
「どぞどぞ。ところで天井のアレはどうやって光っているんですか?」
「光属性の魔石にスイッチを付けて、“ライト”をかけられるようにしただけです」
「なるほど」
「本題に入りますね。セバスくん、貴方のご両親は御存命ですか?」
「え~と……(元の世界なら元気だったけど、こっちの世界にいるのかな? なんかこう地面から生えたとか、木の股から生まれたとかそんな感じなんだろうか。……わからん)」
セバスの中身は浩太のままである。浩太自身はもうこの境遇を受け入れてこの世界で生きて行こうと思ってはいるが、この体の由来なんか知る由もない。
そしてこの質問への答えに間を取った事によりアリアンナの中で答えは出た。最もジョブに漂泊者が出た時点で分かっていた事だが、確認は重要だ。
「あのねセバスくん。ステータスカードのジョブの所に“漂泊者”って出たでしょう? あれはご両親や、祖父母といった保護者がいない子供に出るジョブなの」
「……はぁ」
本当に地から湧いたか、木の股から生まれた様だと知り呆けるセバス。この表情を見たマリアンナは理解できていないものとみて話を進めて行く。
「つまりセバスくんは孤児になっちゃったの。孤児が何なのかはおいおい解かると思うけど、頑張って強く生きてね」
マリアンナは涙目で伝えるが、セバスの中身は城山浩太。ポケーとして見えるのは、解らないのではなく納得しているだけなのだ。しかし彼女の中では幼くして両親を知らないうちに亡くしてしまった、かわいそうな少年として見えてしまっている。そのような誤解の元、ついつい優しく接してしまうのだ。
「それでね、セバスくん。君をこれから孤児院に連れて行きます。これは王国法に基づいた処置だから納得してね」
「…………(こっくり)」
セバスとしては年上のお姉さんに涙目で迫られたら、考える頭等残っていない。ただ頷くだけの人形に成り下がる。若いんだからしょうがないね。
セバスが頷いた事に安堵したのかマリアンナは、このかわいい男の娘に次々と話し始める。
まず孤児院の事。この国の孤児院は神殿が運営しており、そこに各地の領主が補助金を出している。そしてこれらの援助は有償なのだ。15までに既定の金額を納めないと労働奴隷として売りに出されてしまう。その為できるだけ早く仕事に就くのがいい。
マリアンナはその規定の金額、金貨1枚を治める為にセバスはハンターギルドに登録するべきだと熱弁した。
冒険者ギルドとも呼ばれるこの組織は、様々な依頼を扱っている巨大な組織だ。各国毎にギルドは独立して存在しているが、ギルド同士の連帯力が強く保たれている為に、一般では1つの組織として見られている事もある。実際その影響力は強大で、一国のギルドマスターは小国の国王にも勝るとまで言われる事もある。そんなハンターギルドの仕事は、行政では対応できないような雑多な依頼を捌くことだ。
依頼の種類は無数にある。それこそ逃げ出した猫の捜索から、近隣住民の恐怖の対象である邪竜退治まである。どれほど雑多なものかお分かりいただけただろうか?
依頼形態は大きく分けて3つになる。雑用、護衛、討伐だ。
雑用は先程の例の様な失せ物探しや、“~~取ってきて”といった採取の仕事。これはギルド内の階級であるランクが低くても受ける事が出来る。二番目の護衛はある程度ランクが高く、職員からの推薦が無いと受ける事が出来ない。この世界は現代日本の様に、安全とはとてもではないが言える状況無い。その為にいつでも需要はあるが、拘束時間と料金が割に合わないと感じる者が多いせいで溜まりがちだ。そして最後の討伐、これこそが冒険者の花形である。強大な敵を倒し、貴重な素材を入手してくる。当然リスクも大きいがそれ以上のリターンがある為、非常に人気がある。依頼形態の中で唯一需要と供給が釣り合っている物とも言える。
そんな命の鉄火場に、マリアンナがセバスを放り込もうとするのは訳がある。セバスの非常識なパラメーターと多彩なスキル群がその理由だ。
パラメーターはジョブレベルが上がると、その人物が固有で上がる個所が1つとランダムで上がる所が1つ、そして好きに割り振れるフリーポイントが1つ、合わせて3つ手に入る。この時にスキルのLvを上げられるスキルポイントも1振ってくる。ステータスのフリーポイントは、ステータスを底上げしたい所に振ると1点その部分が上がる。スキルポイントは現在のスキルLv×10の値分を消費する事で、スキルLvが上がる。
当然だがそれ相応の訓練や経験を積めばステータス、スキルLvどちらも上がって行く。
Lv上げも訓練もどちらにも長所短所があり、どちらが良いとは一概には言いきれない。兵や騎士といった国に所属する者達は訓練を主体にしているし、冒険者を筆頭にするアウトローな者達はLv上げが主体だ。これは両者の環境による差だ。
多くの国には“練兵:~”というスキルを持つ者達がいる。このスキルを持っている者の指揮下で訓練すると、~の部分に入るスキルが習得できる可能性が大幅に上がるのだ。そうして低Lvのスキルを持った者を量産してからLvを上げて行く。こうする事で訓練時における兵の死亡率を下げているのだ。さらに軍の主力とも言える騎士になる者の多くは貴族で、各家に伝わる秘伝のスキルを身に付けた上で、一般兵よりも厳しい訓練を受けるの事で兵とは隔絶した強さを得ていく。これらの安定した活用により、各国は安定した軍事力を保持している。
一方の冒険者を筆頭にするアウトローな者達のやり方は実に簡単だ。まず武器を持つ。次に獣や下位の妖魔を探す。殺してLvを上げる。スキルは殺している最中に得る以上。
はっきり言って無茶苦茶もいい所だが、この方法で生き残った高Lv ハンターは洒落にならない強さを得ている。持っているスキルは生死の境で手に入れたスキルで、そのスキル達の活かし方では騎士達の遥か上をいく。そしてそのような域にまで達した者はSランカーと呼ばれる特権階級となる。この階級に至った者は大陸全土で王侯貴族の様な待遇を得る。人の身でありながらドラゴンと並び立つ強さを有した者への敬意と恐怖によるものだ。
マリアンナの見立てではセバスの持っているポイント類を振り分けさえすれば、その能力はBランク。すなわち上から二番目に高いランクの冒険者に比肩しうると見ていた。それほどの能力があるならばハンターギルドで働けば金貨1枚位稼げると踏んだのだ。セバスとしては嬉々としてマリアンナが語るのでそれでいいかという気になって来ていた。
夕暮れの中を、手をつないで歩く二人の前に漸く孤児院が見えてきた。
世界背景の組み立てを敢行しております。
その内上げるやもしません。