役場にて
こんばんは。朝倉です。
会話文難しすぎんよ。
門番の人に教わった通りにセバスは道を進んで行った。道は大型の馬車がすれ違えるほどに広い。夕暮れのこの道を仕事帰りの男性達が酒場や各々の家に向かう流れの中、セバスはなんとか役場までたどり着いた。
タルトの街中央広場に陣取る役場は、その日の業務を終了になる時間ギリギリに本日最後の客を迎えた。その客の恰好は何とも言い難い。ボロの麻服の上下を身にまとい、右手にはその幼児の身長程はある抜き身の剣を携えている。
熟練の職員の多くは、厄介事の匂いを素早く嗅ぎつけて素早く窓口から撤退していく。そんな中、逃げ遅れた哀れな子羊にその幼児は近づいて行く。
この日初めて窓口に立った新人の女性職員、マリアンナ・リコラッテは自らの不運を呪わざるを得なかった。次から次へと来る住民の申請や陳情。その中に混じって、少なくない数の気でも狂ったかのような要望をしてくる者が、集中的にマリアンナの元に来たのだ。先輩方は上手くそれらを察知し回避していた。
マリアンナから見れば厄介な案件こそ先輩に処理してほしい所である。しかし先輩方から見ればくだらない妄想に付き合わされるのは、仕事が円滑に進まなくなるだけなので、仕事を始めたばかりの新人に押し付けるのが、この役場の伝統だった。お陰でこの職場の新人は、3月もあれば一人前に成長する事になる。
そんな荒波にのみ込まれているマリアンナは、今日最後まで厄介事に巻き込まれるのを悟りため息をついた。先輩方が次々と席を立って行く。入口に目をむければ、異様な格好の幼児がいてこちらに向かってきていた。
自身の内から沸き起こる先輩方への不満を隠しつつ、笑顔でその客を迎える事に彼女はした。
「こんばんは。本日はどのようなご用件ですか?」
「こんばんはお姉さん。ステータスカードの発行をお願いします」
恰好から想像していた顔よりも、非常に可愛らしいのでマリアンナはホッコリとした。声も実に耳触りがいい。こんな格好でなければ、いいとこのお嬢さんで通じそうだと感じつつ業務を続ける。
当然目の前の女性がそんな事を思っているとは思いもしないセバスは、左手に持っていた羊皮紙を取り出しカウンターに置く。
「こちらは?」
「門番のおじさんから頂きました。こちらに見せればステータスカードを発行してくれると言っていたのです」
「拝見させていただいてもよろしいですか?」
「どうぞ」
マリアンナが断った上で中身をみると、2つの申し送り事項が書かれていた。まずはこの子がステータスカードを持っていないので発行してほしい事。次にこの子は街の外から一人で夕刻にこの街に来た事。
マリアンナとしては、1つめはまあよしとしよう。ステータスカードは、子供が仕事を手伝ったりできるようになるまで取ってない事も多い。この時間帯に来る事は非常識と言ってもいいが、午前中に来たセクハラ爺に比べればかわいいにも程がある。
問題は2つ目だ。1人で夕刻にこの街の子供が帰ってくる事はまずない。街の外に行く子供というのは街の近くに畑のある農家の子供か、ハンターギルドに登録してある孤児たち位の物だ。そしてそのどちらの子供たちもステータスカードは持っている。これが無いと街の出入りが出来ないからだ。そして夕刻前に帰ってくるのにも訳がある。近くの森には肉食で夜行性の獣が多く生息しており、日が暮れるときけんなのだ。しかもこの獣たちは時折夕刻から目を覚まし、狩りを始める。この為この街に住む子供たちは夕刻前には帰ってくるし、大人でも1人で街の外にはいない。最低でも3人で行動している。
ではそんな中、1人で来た子供とは? 一番多いのは何らかの原因で住んでいた場所を追われた孤児だ。そして孤児を保護した場合は保護したものが、孤児院まで送り届ける事になっている。これはこの街だけでなく王国法によって定められている。破った事がわかれば多額の罰金刑が待っている。
つまりこの子がステータスカードを作り、規則にのっとってジョブを確認した時、そこに“漂泊者”という孤児特有のジョブが出たり、所属の欄が空欄だったりするとマリアンナの帰宅は大幅に遅れる事になる。
今日は厄日かと心中で嘆息しながら、何食わぬ顔で業務を続けるマリアンナ。この役所で受け付けに立つ為にはポーカーフェイスが必要とされている意味を、初日で嫌というほどに彼女は実感していた。
パーソナルカードの作り方自体は実に簡単である。国から支給されているカードの右下に嵌っている透明な石に、登録する人物の血を1滴、職員の前で垂らすだけでいい。これで石の中にある魔法陣により、個人の能力が数値化され表示される。初期状態では詳細な情報も表示されてしまうため職員に見せた後、手をかざして“簡略”と唱えて、名前とジョブ、年齢しか表示されない様にすることが望ましい。
この事をマリアンナはセバスに伝え、さっそくする事になった。
セバスがワクワク、マリアンナがドキドキしながら見ていたカードにはこのように書かれていた。
名前:セバス
年齢:4
性別:男
種族:ヒューマン
ジョブ:漂泊者
ジョブLv:38
所属:
パラメーター
HP :787/787
MP :319/319
Str:165{(85+25)×150%}
Vit:42(28×150%)
Agi:26(17×150%)
Dex:36(24×150%)
Int:61(47×130%)
Wis:23(18×130%)
Luk:31(24×130%)
フリーポイント:1036
スキル
木魔法Lv1、身体強化Lv5、魔力強化Lv3、剛腕Lv5、エルフ語Lv1、竜語Lv1、投擲Lv1。
ユニークスキル
索敵Lv3、経験値上昇Lv4、成長率上昇Lv10 、鑑定Lv10、スキル獲得率上昇Lv10、精霊魔法Lv1、竜魔法Lv1。
スキルポイント:370
セバスは目を丸くした。夢枕に立った神様から聞いた通り、ゲーム画面とは違う個所が幾つもあったからだ。そして獲った覚えのないスキルが生えている。なぜだ?
マリアンナは思った。こんなに可愛いのに男の子とか反則……ってやだ、この子強すぎ。どうなってるの!?。
面倒事の臭いがするから見なかった事にしましょ♪ 先輩たちもこれ見たらきっとそうするでしょうし。
二人はそれぞれの思惑を隠しつつ、お互いニコッと微笑みを交わした。
「はい。ではこちらが貴方のステータスカードになります」
「ありがとうございます」
「それとなんですけれど、少々お時間を頂いてもよろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
この会話の後、セバスとマリアンナは談話室に向かい、窓口には誰もいなくなったので本日の役所の業務は終了した。
読んでいただきましてありがとうございます。
マリアンナはヒロインになれるのか!?
作者もわかりません。
以下新スキル。
エルフ語……エルフ族の言語。高いほど意思の疎通がしやすくなる。
竜語……ドラゴン族の言語。高いほど意思の疎通がしやすくなる。
投擲……飛距離と威力に補正がかかる。
精霊魔法……エルフ族特有の魔法が使える。
竜魔法……竜族特有の魔法が使える。