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プレリュードモンスターズ  作者: 級長
学園闘争編
6/61

ビギニング2 アニメ不毛の地で

 アニメ不毛の地、静岡

 静岡県はアニメ不毛の地として有名だ。どのくらい不毛かというと、キテレツ大百科の無限ループが永遠に流されるくらい。

 なんと、あのバンダイのお膝元かつ本編で世界大会が行われた聖地でもある静岡では『ガンダムビルドファイターズ』すら放送していないのだ。

 そこには、裏で動く組織の暗躍があった……。

 ブリーフィング


 ミッションを説明します。依頼主は静岡県庁。自治体直々の依頼です。現在、浜松駅周辺アクトシティに『リアリティマジョリティー』を名乗る過激集団が展開しています。

 彼らは創作物の否定を掲げ、長年バンダイのお膝元であった静岡県の悩みの種でした。テレビ局も、安定して子供から視聴率が取れるアニメを彼らの圧力で放送出来ず、悩んでいます。

 所詮は運動神経だけで生きてきた脳まで筋肉の集団ですが、その考え無しの暴力に我々は苦しめられました。頭が飾りな彼らを相手取るならミッションプランは不要です。とにかく排除して下さい。

 しかし、数と力任せが武器なこの集団相手ですと、何が起きるかわかりません。そこで依頼主は、他モンスターやプレイヤーを雇うことを推奨しています。必要なら私に声をかけて下さい。私から紹介出来るモンスターはゼウス紹介の『ブラッドプリンセス・カレン』、『ネオニダス』、チーム『サーペント』より如月氏所有の『サファイアバスタード・クアルタ』の3名。

 そして、同様のミッションが十五級長『武器商人』上杉四季にも通達されています。これと共同してミッションに当たって下さい。

 説明は以上です。必ずや卑劣な暴力集団の息の根を止め、静岡の地にアニメを取り戻して下さい。


 12月末 静岡県浜松市 浜松駅周辺『アクトシティ』


 浜松駅の周辺には大きな複合施設、アクトシティがある。楽器博物館もこの辺りである。

 「いくら金に困ったからって傭兵業とか……」

 「だったらバイト続けなさいよ」

 『これで、あなたの職歴はコンビニ飲食ライン工と一周しました。本来なら中々のキャリアです』

 その日、目黒カナメは地元に帰っていた。実家に帰ったらのんびりしようとしていたカナメだが、ルナとその補助ユニット『SEA』がカナメを引っ張り出して傭兵のバイトに誘ったのだ。

 ルナは人魚の姿をしたアイドル。つまりモンスターだ。人魚なのに地上にいられる理由は、地味に浮かんでいるからである。プレリュードモンスターズ実体化以来、プレイヤーによる傭兵業も盛んになっていた。

 「ほらほら、見てみ。岡崎のスーパーに強盗入ったんだって。働くのは悪い事が起きる前兆だよ!」

 「バイトの度にこうなればその言説は認めよう」

 カナメはスマホのニュースをルナに見せた。年末商戦真っ最中のスーパーにモンスターを従えた強盗が入ったらしい。ルナはありえない条件を突き付けたが、現にそのスーパーで条件を満たしそうな朝凪一機がレジを打ってた事など知りはしない。

 『ミッション開始。アクトシティを占拠するリアリティマジョリティーを排除する』

 「ほらほら、モンスターに指示出しなさいよ」

 目黒はルナに指示され、モンスターに指示を出すことに。プレイヤーがすることはスキルの解放と、俯瞰からの戦闘観察くらいなのだが。

 目黒のスマホに2枚のカードが表示された。これが今回の仲間なのだ。ゼウスというモンスター界のお偉いさんが寄越した助っ人なので、プレイヤーはいない。

 「こちらカレン。よろしく。こんな辺鄙な駅を平日昼下がりに狙うなんて、相手はきっと無職ね」

 「俺は上杉四季。クエスト受けたからには仕事はさせてもらうよ」

 ルナの隣に二人のモンスターが立つ。赤い華やかなドレスに身を包んだ黒髪の美女が『ブラッティプリンセス・カレン』。フード付きの赤いコートを着た剣士が『上杉四季』である。

 「やれやれ、ブラッティプリンセスなんて枕詞を付けられるなんて。私は宿命から逃れられないのね。それよりあなた、上杉に四季ってどういうことよ」

 「あ、そういえばそうでしたね」

 カレンがレイピアを手入れしながら四季に問い詰めた。ルナも何かを思い出す様に頷く。

 「妙なことを聞く。俺の苗字が上杉で名前が四季だって話だろ? うちの家じゃ代々、季節絡みの名前を付けるルールがあるんだ」

 「なるほど、違う世界でもそういうことあるのね」

 「なんの話?」

 完全に話から置いてかれた目黒が確認する。とりあえずルナが説明した。

 「カレンの生前の名前は『上杉夏恋』っていうの。だから少し気になったみたいね」

 「本当はもっと気にしてる要素があるが、まあ説明が面倒だ。行くぞ」

 カレンの先導でチームは出発。とにかく駅に隣接するこのエリアの占拠は悪質な迷惑行為。力付くで排除は当然だ。

 「傭兵だと?」

 「気にするな。筋肉の無いオタクなど恐れるに足りん」

 まずは周辺の道路を取り戻して警察のルートを確保する。カレンがレイピアで敵を制圧していく中、四季は身長ほどある刀を振り回していた。

 「筋肉達磨は家でプロテインでも舐めてなさい」

 「ブヒィ!」

 プレイヤーはカレンが罵倒と共に蹴り飛ばす。目黒はそこ代われとか思ったとか思わないとか。

 「サッカーやろうぜ! お前ボールな!」

 プレイヤーを蹴り飛ばす様子を見るに、目黒はカレンと四季がまるで無関係な人物とは思えなくなっていた。創作作品でいうなら、作者が違う作品世界を繋げるキーワードに用意したような雰囲気がある。

 「でもカレンってホント美人だよね。なんで私のモンスターは生臭いんだろ?」

 「人魚は生臭くない! むしろ珊瑚の香りだ!」

 生臭いとか言われて若干ショックなルナ。人魚でもさすがに生臭くはないが、目黒は遠回しに『香水のチョイスが気に入らない』と言いたいのだろう。

 「課金部隊はまだか!」

 「持たんぞ!」

 なんと、リアリティマジョリティーは課金モンスター無しで戦っていた。二次元産業であるソーシャルゲームに課金しないという徹底ぶりは脱帽ものだが、目的の為にある程度妥協することが出来ないというのは組織として致命的だ。

 一行は快進撃を続け、アクトシティ内部に入る。

 『想定より戦力が少ない。楽勝です』

 ここまで全員がスキルを使うことなく戦闘を続けていた。ゲームスキルなら一般以上くらいはある目黒には、この戦力でこのくらい余裕だと判断できた。ただ、楽勝と思うには早計だとも思えた。

 「はー、戦う姿見てもエルフィと同じ女だとは思えんわ。やっぱり綺麗だ」

 四季はカレンの戦う姿に見取れていた。目黒も同じ様に見取れはいたが、口にはしない。

 「打ち所が悪かった?」

 カレンは心底気持ち悪そうに、養豚場の豚を見る様な目で四季を見る。

 「一撃たりとも喰らってねーよ。いや、あいつの戦い方がエグイんだよ。敵部隊のうち一人を殺さない程度に撃って、駆け寄った仲間を殺したり……」

 「いいんじゃない? それがエルフィって人の戦い方なら」

 「そうだな。あいつがいきなり西部劇みたいな決闘やりはじめたら心配する」

 目黒が仲間の戦い方を愚痴る四季にフォローを入れる。四季も愚痴は言うが、完全に嫌ってはないらしい。

 「けど、目黒カナメ。初対面のあなたに言うのもなんだけどさ、あなたの目が苦手」

 「え?」

 「あ、ゴメン!」

 「いや普段毒舌吐いてる人にナチュラルに言われると損した気分……」

 目黒からの視線に耐え兼ねたカレンが遂にぶっちゃけた。それなら思い切り罵ってくれた方がちょっと得した気分だったのに、目黒は少しガッカリだ。別段、目黒がドMというわけではないのだが、ここまで綺麗な人に罵られるというのは滅多に出来る経験ではない。

 小牧大学文化創造学部に通い、創作に携わる者としての純粋な気持ちなのだ。

 「カナメの目線って、同性に見られてるって気がしないの。でも男に見られてるのとも違う、なんか微妙な感じ」

 「そ、そう」

 カレンの感想を聞き、微妙な気分になった。目黒カナメという人物の複雑な成り立ちを端的に示す発言ではあったのだが。

 目黒チームは巨大な螺旋階段の場所まで来た。先行するのは目黒カナメとルナ。目黒は常々、ラスボスが出そうだとか思っていた。

 「あれは?」

 「召喚陣?」

 目黒は螺旋階段の中央にある魔法陣を見つけた。それはモンスターを召喚する時に現れる魔法陣だった。色は複数のものが混じっている。

 「何か出てくる!」

 「宝石……?」

 その召喚陣からは、カラフルな宝石の体を持つ巨大なゴーレムが現れた。

 「『エレメンタルゴーレム』ね。って……しまった!」

 ルナが呟くと、螺旋階段の部分が結界で封鎖された。結界内部にいるのは目黒とルナのみ。

 「モンスターがこれ以上いられない様にするためか。厄介な」

 カレンと四季に対し、結界は壁の様に作用する。目黒は出入り出来るが、ルナは出れない。

 「これはちと面倒臭いな。カレン、なんかいらないもんあるか?」

 「これは?」

 四季は状況を察知し、カレンから赤いリボンを受け取る。そこに何かを込めて、目黒に渡した。

 「俺の神力でカレンの力をチューニング、これが『鮮血のマテリアル』だ。使え」

 「と、とにかくやってみるよ」

 目黒は『鮮血のマテリアル』となったリボンを受け取り、スマホの画面に入れた。マテリアルはこうしてスマホの画面に入れたり、取り出して手渡し出来る。目黒の頭にはマテリアルに関する知識が自動的に書き込まれていた。

 「私の力をルナ、いいえSEAにチューニングしたら『鮮血』ねぇ。宿命かな?」

 カレンが不満げに呟いたが、その意味は誰にもわからなかった。目黒はマテリアルを使うべく、スマホを操作した。

 「オーシャンシンガー・ルナ! ブラッティ・アームドオン!」

 「ブラッティダンサー・ルナ!」

 ルナの衣装が紅い華やかなドレスに変わり、人魚だった足が人間のものに変化した。

 「頭を叩く!」

 ルナは螺旋階段を走り、頭の部分を目指した。途中、エレメンタルゴーレムが炎や水の弾を飛ばして迎撃する。

 「せい!」

 しかし、ルナはそれを蹴り飛ばして防御。エレメンタルゴーレムは跳ね返された弾で逆にダメージを追う。

 「全ての属性を持つエレメンタルゴーレムは、全ての属性が弱点になりうるのね」

 エレメンタルゴーレムは鉄以外全ての属性を持つモンスター。ルナの予想通り、跳ね返された弾が弱点になる。

 「よし、頭が見えた!」

 遂に頭の場所まで到達したルナは、飛び上がって空中で一回転してからキックを頭に放つ。ライダーキックである。

 エレメンタルゴーレムは頭を砕かれ、轟音を立てて崩れた。登る途中に蓄積したダメージもあったおかげで、一発で討伐に至った。SEAの声が目黒に届いた。

 『全目標の排除を確認』


 その後、リアリティマジョリティーは警察が捕まえて連行した。これで浜松に平和が戻り、静岡にアニメがもたらされるだろう。

 「じゃ、俺は帰るぞ。じゃあな」

 四季はそそくさと帰っていった。ただ、カレンだけはまだ辺りを見渡している。

 「何かお探しかね?」

 「ここにもいないみたいね、冬香」

 気になったルナが尋ねると、彼女はそう答える。ルナはカレンの友人であり、彼女が探している『冬香』に関しては同僚なので知っていた。

 「誰それ? 恋人?」

 「妹よ。私より先にモンスター界に来たはずだけど……」

 目黒はカレンが誰を探しているのか知らなかった。妹を探しているらしい。

 「妹を?」

 「ちょっとわけアリでね。冬香も私を探しに人間界へ行ったから、私の力を感じたら見つけられるはず」

 入れ違いになったのか。モンスター界はある意味死後の世界であるため、生きてる姉を探しにいったら入れ違いに死んだといったところだろう。目黒はそう予想した。

 「あ、私雇ったら依頼料の60%持ってくけど覚悟いい?」

 カレンはそこで思い出したかの様に分け前の話をする。60%とは、どこぞの水没王子を連想させる多さだ。

 「え? 依頼料は?」

 『依頼料は浜松市から3万円、静岡県から1万円。合計4万円。カレンの取り分は60%の2万4千円。残りは1万6千円です』

 「安い! 安さが爆発している!」

 傭兵を雇うにはあまりに安い報酬だった。日本はお国柄から傭兵を雇い慣れておらず、こんな日当レベルの報酬に留まったのだろう。目黒もビックリだ。

 「ていうか、モンスターならお金いらないでしょ?」

 「だって私、こっちで暮らしてるからさ。たまに使うの」

 「ぐぬぬ……」

 カレンはプレイヤーがいないのにこちらで暮らしてるため、お金が必要なのだ。モンスターは食べなくても生きていけるが味覚はあるし、人間に偽装するために服を買ったり交通機関を使う必要がある。

 「静岡にアニメが戻ったんだからいいじゃない。ほらいくよ」

 「わーん! このブラック自治体!」

 変身を解いていないルナに引きずられ、目黒は浜松駅を離れる。浜松市は戦闘の余波で被害を受けたが犠牲者はゼロ。自治体は予算を消化出来ると喜んだんだとさ。


 愛知県岡崎市 スーパーマーケット


 「は? 蟹を買えと? この俺に?」

 岡崎市のスーパーマーケットで立て篭もり事件があったことはネットニュースで伝わった。ブチ切れた朝凪一機がクロノで犯人グループのモンスターを殲滅したが、大量の商品が売れずに余ったため、バイト含めた従業員が自腹で買う羽目に。

 年末となると、高い蟹や肉が店にはあったのだ。自爆営業が最悪のタイミングで発動した形になる。

 「売れなかったなら当然の措置だ」

 「【絶閃】!」

 「峰打ち出来ないから案じるの」

 偉そうにいうスーツの経営者に向けて、朝凪がクロノのスキルを発動。スーパーのエプロンをしたクロノが経営者のスーツだけを綺麗に切り刻む。

 「あ、アルマーニのスーツが!」

 「アルマーニが似合うのは出来るビジネスマンだけだよ。お前にゃ似合わん」

 スーツがバラバラになり、経営者は全裸にされた。そこに警察が通りかかり、経営者に手錠をかける。

 「君、こんなところで何をしてるのかね?」

 「猥褻物陳列罪の現行犯だ。署まで来てもらう」

 「わ、私はこのスーパーの経営者だぞ!」

 「どう見てもそうは見えん」

 経営者はパトカーで連行された。朝凪はまたバイトが続かなかったのだ。そんな彼は今後の予定をクロノに語る。

 「なあ、今度ワタミの本社襲撃しようぜ?」

 「言ってることがアンタッチャブルなの……」

 「いいんだよあんなブラック企業。法を守らん時点で何されても文句は言えんさ」

 朝凪はかつてその飲食店で働いていたが、居酒屋なのに未成年ばかり雇うし試験休みはくれないし嫌気が差した彼は大腸菌をサラダバーにぶちまけて食中毒問題引き起こして店を潰したのだ。

 朝凪一機は悪運とかモンスター実体化以前に吐き気を催す邪悪に対しては非常に陰湿な対抗策を取る性格であり、ちょっとヤバい奴なのだ。ただ、誠実な人間に対しては自分も誠実な対応を返す。これは育ての親ともいえる佐原凪総理大臣の影響がある。

 日本人の無抵抗な気質に安寧を貪るブラック企業が心を病んで眠れなくなる日は近い。

 ブラッティプリンセス・カレン

 属性:闇

 レア度:Sレア

 コスト23

 スキル:リッパーブラッティ(敵一体を滅多刺し)

 説明文:血濡れの姫君。その鮮血にまみれた運命から他人を遠ざけたいがために、キツイ言動が多い。


 15級長『武器商人』上杉四季

 属性:闇

 レア度:Sレア

 コスト23

 スキル:ディアボリーク(敵一体を滅多刺し)

 説明文:とある高校に通う、高い戦闘能力を持った15人の生徒の内一人。あらゆる武器を使い熟し、武器の声を聞く。

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