番外 恵方巻は3日に食べるもの
節分イベント『恵方巻、完売せよ!』
恵方巻を売り付けて完売させろ! 期間内に売れないと自費購入だ!
二年前 岡崎市内コンビニ
「さぁお前ら、キリキリ売れ! 売れなきゃ自費購入だぞ?」
「生ゴミをどう売れと……」
朝凪一機はその日、コンビニでバイトをしていた。コンビニの店長が正に社畜で、自爆営業当たり前の姿勢だったのだ。
一機も恵方巻は試食したが、鈴虫も平気で食べる彼が珍しくマズイと感じたのだ。これは売れるはずがない。他のバイトは自爆営業がわかっていたのか、既に風邪を装って逃亡していた。
「ん? なんか言ったか?」
「こんな山奥なのに、これじゃまるで誤発注ですよ」
一機はおにぎりの棚だけではなく、コールドドリンクの棚さえ埋め尽くす勢いの恵方巻を見てため息をつく。山奥のコンビニであり、買い物に来るのはじいさんばあさんかアウトドア野郎。冷たい飲み物が欲しいだろうに、余計口がパサパサしてしまう。
「客来ないし、イベント走ろ」
「サボってる暇があると思うな! お客様が来たらどうするんだ!」
「お客様なんていませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから」
一機はとうとう、ソシャゲをやりだした。掃除を終えても誰も来ないくらい暇なのだ。みすぼらしくやつれた眼鏡店長が何を言っても怖くないので、一機も無視する。
「ウゲー! プレリュードモンスターズでも恵方巻かよ! 刺激的にご利益ねぇだろこんなん!」
「そんなこと言うからご利益が無くなるんだ!」
「じゃあ、試してみます? ご利益あったら今日は平穏無事ですよ」
店長は恵方巻を馬鹿にした発言に激怒するも、普段の彼を知る人物からすれば恵方巻の力を疑うのも理解できた。一機は恵方巻の一つを、わざわざ恵方を向いて食べる。
「ちょ、品物を!」
「廃棄になるよりマシだ。この店にはもったいないお化けが憑くね」
品物を勝手に食べられて、時間が過ぎた中華まんを捨てていた店長も慌てるが、この店は入荷した品物が殆どそのまま廃棄されるくらい人が来ないのだ。
「さて、これから数時間何もなけりゃあんたの勝ちだ。効果が無いなら、強盗やトラックが来るだろ」
「そんなホイホイ強盗やトラックが突っ込んでくるか」
一機は荒唐無稽な事を言っている様に見えるが、経験からこういう発言をしているのだ。このバイトを始めても今まで店長がゴミ屑以外は何ともなかったので、そろそろ何かありそうだと考えていた。
今日何も無くても、一年間に賭けの内容を切り替えるまでだ。
「お前な、そういうことがあるのは努力していない奴だけだ。社長もおっしゃってるだろ、不運だ不幸だは怠け者の言い訳だって」
「じゃあ店長、今スッゴい嫌な予感するんでレジやって下さいよ。俺、ウォーク見てきます」
一機は社長に洗脳されている店長にレジを任せ、ウォークに向かう。コールドドリンクの棚の後ろにある冷蔵の倉庫をウォークインと言うのだ。そこからドリンクを、棚の後ろから補充する。もっとも、今はドリンクではなく恵方巻が入っているのだが。
「全く、最近の若者は怠けてばかりで運がないだと……」
店長はぶつくさいいながらレジにつく。すると、いきなりお客さんらしき人が来たではないか。
(ほら客が来た。努力しないものに運は回らな……)
「金を出せ!」
「ファッ?」
心の中で満面の笑みを浮かべていたら、なんと客は強盗だった。よく見ると目出し帽をかぶっており、あらかさまな強盗であった。
「あ、やっぱり来たか。なんか嫌な予感すると思ったんだよな」
「動くな! こいつの命はないぞ! 金を持ってこい!」
一機は物音を聞いてウォークから出て来た。店長は刃物を突き付けられ、人質状態。
「先に言っておく、レジの下に警報ボタンは無い。んなもん付ける殊勝な会社じゃないからな。雑誌でも読んで待ってろ。紐外していいぞ」
一機は慣れた手つきでレジから現金を取り出す。強盗も慣れっこだ。
「おい、そこにいると危ないぞ」
「指図するな!」
一機がレジの近くにいる強盗を注意しても、強盗は動かない。彼を知る人物なら、間違いなく一機の忠告を聞いただろう。
なぜなら、トラックがコンビニ目掛けて突っ込んで来るからだ。
「アバーッ!」
強盗はトラックに押し潰されて即死した。トラックはレジの前の空間を直撃しており、一機の言う通り雑誌を読んでいれば助かっただろう。
「グワーッ!」
店長は衝撃で吹っ飛ばされた中華まんの蒸し機に潰されて肋骨を粉砕していた。不摂生が祟った結果だ。
「おーい、この店のトラックじゃねぇか。大丈夫か?」
トラックはこの店に品物を届ける便で、運転手も顔見知りだ。どうやら、働き過ぎで運転中にぶっ倒れたらしい。一機は運転手だけ助け出し、店を出た。
久しぶりの更新がこれだよ!
もうすぐクライマックスっぽいから、請うご期待!