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プレリュードモンスターズ  作者: 級長
名古屋めし拡大運動編
50/61

20.絶影

 これまでのプレリュードモンスターズ

 織田信長の末裔を名乗る愛知県知事、織田信男は岡崎市の岡崎城から宝物を盗む。信男はかつて、朝凪一機に恥をかかされたことがあったのだ。

 徳川美術館に宝物を運んで朝凪をおびき出した信男には、必勝の作戦があった。

 名古屋市 徳川美術館


 鎧兜の男が、ユニコーンを摸したバイクに乗って何かを待っていた。徳川美術館の入口前、長い石畳の通路でこの姿はなかなかシュールだ。

 小牧大学もメンバーシップを行っている徳川美術館は、徳川家にまつわる資料を集めている美術館である。

 明治の四民平等、廃刀令により武士の特権は喪失。没落してしまった武家は多くの貴重な資料を売却などで散逸させてしまう。

 徳川家は財団を立ち上げて保護したため、こうして資料を守ることが出来た。その美術館も、今や自称織田家の末裔の手に落ちた。

 織田信男愛知県知事は自身が織田の末裔であることを根拠に徳川美術館を占拠したのだ。

 「さぁ、来るみゃ! 朝凪一機!」

 その理由は、個人的因縁への決着。衆人の目前で、得意(笑)の剣道でボコボコにされた恨みを晴らすことが目的だ。

 既に『モータービースト・ユニコーン』が変型した白銀のバイクに跨がり、これまた銀色の鎧兜を着込んでいる。縦に長い兜は信長の愛用したものだ。

 ただ、鎧には似合わないものがあった。それは、バックルにカジノでよく見るルーレットが付いた変身ベルトだった。変身ベルト『モンスタードライバー』により、知事はモンスターになっていた。

 「来たな」

 突然、火球が空から落ちて来る。知事はバイクを前に走らせて回避した。黒いドラゴンに乗り、一人の少女が降りて来た。

 「よう、刺激的に久しぶりだな。大うつけ者」

 それこそ、朝凪一機。知事の顔を泥パックした当時からすれば性別すら変わってしまったが、紛れも無く当人なのだ。一見すると、ただの女子大生である。

 「召喚! 『ナイトメアナース・イヴ』! 『シャドウ・アラクネ』!」

 ドラゴンの脇に、イヴとアラクネが現れる。ここで決着を付けようというのか。互いに本気なのだ。

 「アラクネ、マテリアルを取りに行け!」

 「はいな!」

 朝凪はアラクネを美術館の中に向かわせた。その中にエンシェントマテリアルがあるなら、強化した方が楽に戦える。

 「やるぞ! イヴ!」

 「OK!」

 朝凪とイヴ、が織田信男との戦いに挑む。だが、知事はそのつもりなどないようだ。

 朝凪が蜘蛛の糸みたいなもので捕まってしまう。

 「今だ! スポエドーラグナロクとやら! 準備は出来たぞ!」

 「ツコモイツ!」

 蜘蛛怪人みたいな見た目のモンスターが、朝凪を引っ張って確保する。

 「『イワゼィルラグナロク』ソモゴクセワセチマカラシノエロセエゴ、カラスヘツヤウホノエ!」

 「ここでは人間リントの言葉で話せ!」

 蜘蛛怪人、スポエドーラグナロクはわけのわからない言葉で話していた。朝凪は特撮の敵民族特有のオリジナル言語かと思ったが、どうやらマジ言語だったらしく、不満げにスポエドーは片言の日本語で話し始めた。

 「仕方ない、奴。私ら、ラグナロク、頭いい。だから、パンクしないよう、わざとこんな言葉話す。まぁ、日本語くらい余裕だがな。我々ラグナロクが話すと頭良すぎで心の読み合いに発展し、疑心暗鬼になる。だから、わざと使いにくい言葉を使うのだ」

 「め、面倒くせぇ!」

 スポエドーと話している間に、朝凪は携帯をイヴに投げた。戦力の追加を防がれたくはない。

 知事はスポエドーに手を振る。

 「では準備を頼むぞ」

 「おう。後でひつまぶし食わせろよ。何年ぶりだろうな、飯というものは」

 朝凪を抱えて走り出したスポエドーをイヴが追うと、いきなりスポエドーの姿が消えた。

 「この無限回廊で、貴様と決着を付ける!」

 そして現れたのは、先程の石畳が無限に続く道。つまり、バイクでここを走りながら戦うというわけだ。何らかのモンスターによってここを生み出したのだろうが、当然犯人は外にいるのだろう。

 「やるしかないようね!」

 「私に勝てると思うなよ!」

 イヴはバイクになったブラックアッシュドラゴンに跨がり、アクセルを蒸す。ここに、バイク対決が始まった。


 名古屋市内 オアシス21


 オアシス21はガラスで出来た楕円の天板を天井にする、奇っ怪な建物だ。そこではイベントをしたり、様々な店が並ぶ。今は移転しているが、ポケモンセンターもあった。故に、朝凪はここに立ち寄ることは無い。

 クロノは未だ、一人で辺りをふらついていた。失った力を取り戻さなければ、朝凪の戦いには加われない。イヴとアラクネの更なる強化フラグも、クロノには焦りでしかなかった。

 「あ」

 「おう、朝凪はいないのか?」

 オアシス21を訪れたクロノは、ゴリラと鉢合わせした。朝凪が行かないスポットを中心に歩いていれば、彼と性格や趣味が真反対のゴリラに出会うことは不思議でない。

 「いつも一緒にいるわけじゃないの」

 「そうだろうな。珍しいけど」

 「あんたこそ、猟太郎は?」

 クロノもクロノで、ゴリラが猟太郎と一緒にいないことを不思議に思った。猟太郎や田中ルミと行動しているシーンが、ゴリラには多い。

 「決別したからな。そんなもんだろ。人間はいつだって一人だ」

 「一人……」

 ゴリラの言葉は、クロノには深く突き刺さる。モンスター界にいては姉のクロードに引っ付き、人間界では朝凪に付いている。つまり、一人でいる状態は今が初めてなのだ。

 「図書館でお前に返り討ちに遭ってからな、反省して本読む様になった。意外と面白いんだな。普段やらないこともやってみるもんだ」

 「……そう」

 クロノはゴリラと特に親しいわけではないので、挨拶程度の会話を終わらせてその場を立ち去ろうとしていた。

 その時、町中に広がる轟音と共にオアシス21の天板が大きく傾いた。

 「な、何?」

 「く、崩れるぞ! 召喚、ドレッドテンペストドラゴン!」

 ゴリラがガラケーを空に掲げ、黄色の魔法陣を呼び出す。地面と天板の間に現れた魔法陣からオレンジ色のドラゴンが、天板を持ち上げる。

 「しまった! こいつはスピードタイプだから力が無い!」

 「他のモンスターは?」

 「無い!」

 だが、天板を抑えるだけでドレッドテンペストドラゴンは限界を迎えていた。

 「フハハハ! 朝凪一機がいないとそんなもんか!」

 「お前は……コーカサスナイト!」

 ピンチであるクロノ達を嘲笑いに、大柄で黒光りする鎧の騎士が現れた。コーカサスナイトだ。

 「天板ごと潰れろ!」

 「まさか……あんたがこれを!」

 オアシス21の天板を落としたのはコーカサスナイトの仕業だった。柱は粉々に粉砕されている。

 「お前を傷付ければ、朝凪か誰かくるだろ。さぁて、暴れるか!」

 「何か……早く何か……!」

 慌てるクロノは辺りを見渡す。すると、側にドレッドテンペストドラゴンの落とした巨大な刀が落ちているではないか。クロノはそれに手を伸ばす。


 無限回廊


 「死ねぇ! 朝凪死ねぇ!」

 鎧武者となった知事がユニコーンのバイクでウィリーをかましながら突撃してくる姿はシュール窮まりない。イヴは吹き出しそうになりながら回避した。

 「あんたが死ね!」

 並んだ瞬間、イヴは後輪を持ち上げて知事にぶつけようとする。知事は横の間を広げて回避した。

 「まだまだ!」

 今度はイヴがウィリーで知事に迫る。知事はまた間を広げたが、石畳から落ちて砂利道に入ってしまう。

 「これでまともに……何?」

 オフロードでは上手く走れまいと考えたイヴだが、ユニコーンバイクは問題無く走る。

 「仕方ない奴ね……」

 「最強のモータービーストなのだ! オフロードでもオンロードでも最速が出せる!」

 石畳に復帰した知事の真後ろにイヴが付く。知事はアクセルを全開にしてもイヴを引き離せない事に戸惑いを感じていた。

 「何故だ! 何故離せない!」

 「スリップストリームだ」

 イヴが駆使したのはスリップストリームという技術。前を走る車両の後ろに張り付き、自分は空気抵抗を受けない様にしてスピードを上げるのだ。

 今の知事は空気抵抗を受けやすい鎧姿。無駄にデカイ図体が仇となり、イヴは空気抵抗を知事でガード可能になったのだ。要は、知事シールドというわけだ。

 「さぁて、お仕置きの時間ね」

 イヴは最大まで加速し、ハンドルを引き抜いた。追い越し様に抜いたハンドルから伸びる刃を知事にぶつける。

 「グオッ!」

 「まだまだァ!」

 イヴはそのまま知事と距離を離し、かなり走った辺りでバイクを止める。知事はまだバイクで何とか走っていた。

 「ナイトメアスラッシュ」

 イヴは翼を広げ、大きく飛び上がる。そして、そのまま急降下し石畳と並行に飛行、知事に向かってバイクのハンドルを抜いた剣を構えながら突撃した。

 距離があるから知事も避けられると考えていた。しかし、想像よりイヴが接近するまでの時間は短い。

 一説には、時速100キロの車が正面衝突する際、50メートル離れていても衝突までに掛かる時間は1秒に満たないと言われている。

 「せりゃぁーっ!」

 「馬鹿な!」

 知事は剣で打たれ、バイクから弾き飛ばされる。真っ二つにならない辺りに防御性能が伺える。

 だが、一撃で倒せないことくらいイヴにも織り込み済みだ。

 「アッシュ!」

 「グルォ!」

 知事が立ち上がる瞬間、炎を纏ったバイクのブラックアッシュドラゴンが知事を轢く。

 「ギャアアア!」

 知事は爆発四散しながら吹き飛び、人間の姿になる。ベルトも粉々に砕けた。

 「き、貴様ごときに……」

 「お、戻った」

 それと同時に、無限回廊が解除される。イヴはそこで、ミノタウルスを切り伏せるオウゴンオニムシャを見掛けた。このミノタウルスが無限回廊を生み出していたのだろうか。

 「あまり感心しないな、こういうのは」

 「あんた……」

 「自分がこのような馬鹿殿で無かったか、久々に家臣に会って聞きたくなったわ。さらばだ、夢魔の娘よ」

 オウゴンオニムシャは何か思うところがあり、主に反逆したのだ。この男はただの馬鹿ではない、イヴはそう感じた。

 「徳川家康か、人質に取った頃は奴が天下を取ろうなど考えもしなかったな。そのような者を人質に出来たのは光栄だ」

 「あんた、まさか!」

 「おっと、今川など昔の名前は出してくれるな。今の私はオウゴンオニムシャだ。やれやれ、あの大うつけの子孫を名乗る割に歯ごたえの無い男よ」

 オウゴンオニムシャはこの地を走り去る。彼が生前どんな男だったか、イヴは想像が付いていた。

 「イヴさん! 一機は?」

 「そうだ、追わないと!」

 美術館から出て来たアラクネに急かされ、イヴは朝凪をさらったスポエドーを追った。


 名古屋駅 金時計前


 「やめて! 私に乱暴する気でしょ? エロ同人みたいに!」

 「うっさい! 少し見たいとか思ったじゃねーか!」

 朝凪一機はスポエドーラグナロクに捕まり、名古屋駅の有名な集合場所、金時計に縛られていた。スポエドーはわざわざテレビ局を呼び、様子を中継させていた。スポエドーは白いマントを着ている。

 「よーく見ておけ、貴様ら! この女は人間じゃない!」

 「お前が言うな!」

 「お前自身にも自覚があるはずだ! 何故自分がこんなにも不運なのか! それはお前の存在理由が原因だ!」

 「そんなんで幸運にできるなら宝くじ買うぞ!」

 「あーもー煩い! 頼むから黙ってろよ!」

 いちいち朝凪が口を挟むせいで上手く進行出来ないスポエドー。でも手は上げない紳士。

 「教えてやる、貴様はこの世界の死者が成る存在、モンスターが人間に転生した姿だ!」

 「な、なんだってー!」

 スポエドーが満を辞して衝撃の事実を明かすが、朝凪は適当な返しをするだけで間に受けてない様子。

 「いいか! 貴様はモンスター界の魔王、クロードが人間に転生した姿なんだよ! お前が不運なのはこの世界が巨大な力を持つお前を排除するために運命を捩曲げた結果! それからギリギリ助かってんのはお前の力が守ってるからだ! ソケュボス様が調べたのだから間違いない!」

 「クロード? それってクロノの姉か?」

 クロードの名前が出て来た辺りで、朝凪はようやく真剣に話を聞いた。考えても見れば、幻惑能力や闇の剣など人間業でない行為を朝凪は散々やっている。それはクロードの力だったのだ。

 「テレビの前の諸君! この女の正体を暴いてやる!」

 スポエドーは朝凪の目を見つめる。緑に妖しく光る目を見た朝凪は、脳裏に見たことない様な、だが懐かしい記憶を感じた。


 荒野に魔王軍の軍師、オルビアが立っていた。それに対峙するクロードの目線で記憶を辿っている。

 (あれは、オルビア?)

 「まさか私の軍略をこんな手で破るなんて……」

 「スパイ送り込んだやつ? いやーごちそうさま。おかげで美味しいシュチエーション楽しめた上に、城に可愛い娘が増えたよ」

 記憶は変わり、城の中。天蓋付きの大きなベッドの中で、オルビアと肌を重ねて眠るクロードの記憶だ。

 「こんな、女同士でそんなの……。反則です」

 「エヘヘー、お前はウチの子だぞオルビアー」

 また記憶が変わり、今度はおでんの屋台。呑み交わしているのは体が燃えている人型モンスターだ。

 「東野という教え子がいてな、存外頼りない奴だったが卒業する頃にゃーそら頼れる男になったな。教師になりたいなど言っておったが、なれたんかのう」

 「生まれ変われたら、確かめて来ます」

 (東野先生のことか?)

 またまた場面は変わり、ブラックアッシュドラゴンの背中。後ろには、クロノが乗っていた。

 「これから私がお前のお姉ちゃんだ、妹よ」


 朝凪は流れる記憶に安らぎ、抵抗を忘れていた。断片的だが、家にいる様な安心感を覚える。

 「今見せてやる! クロードの姿を!」

 「させるか!」

 スポエドーが朝凪の胸に手を伸ばしかけた時、ウルフが横からスポエドーを蹴り飛ばした。上からモータービースト・ベヒーモスをバイクにしてレア、棗、遊佐が追い付いた。

 名古屋駅の金時計付近に入る入口は二つあり、そのまま金時計が拝めるルートではなく慌てていたレアはエスカレーターで降りるルートを通ってしまったのだ。

 「し、死ぬかと思った……。いきなり慌ててどうしたウルフ!」

 「今の朝凪でクロードを目覚めさせるな! 朝凪を殺したくなければな!」

 とんだ絶叫マシンに乗せられ、さすがに遊佐も半ギレ。ウルフは何か焦っているらしい。

 「どういうことー?」

 「奴らの話が本当なら、今が朝凪一機の瀬戸際だ」

 棗がウルフに質問を飛ばす。彼は何か知っているらしい。レアも大体察しが付いている様だ。

 「転生したのがクロードだけだからまだ机上の空論だけど、魂ってのは『記憶』と『能力』の集合体なんだ。その両方を封じて転生させた場合、新たな魂が生まれる。つまり一機はクロードが転生した姿だけど、一機とクロードの魂は別々なんだ」

 「モンスター界では有名な論文だからな。レアも知ってたか。別々の魂、とはいえ一機の魂はクロードの記憶と能力の封印が行われた結果として、そこを土台にして一から記憶と能力を積み上げて成立している。つまり土台であるクロードの魂が目覚めた場合、一機の魂はクロードの一部になり、失われる! モンスター界で適切な処置を受ければ安全に切り離せるがな」

 まとめると、今クロードが復活したら朝凪が魂ごと死ぬというわけだ。

 「朝凪はいけ好かない奴だけど、いなくなったらクロノがますます塞ぎ込んじゃうからね」

 「あさあさいなかったら誰が私のモンハン手伝ってくれるの? れあれあ、助けよう! アームドオン!」

 「下手な御託並べるよりお前らしいや! 行くぞ!」

 レアは悪夢のマテリアルで姿を変える。ゴスロリ修道服のシスターが、白い銃やグローブ、ブーツを装着していく。

 「ヘレティカルシスター・レア!」

 「消し飛べー!」

 レアがマシンガンをスポエドーに乱射する。突然の銃声に辺りがパニックとなった。

 「効かないね」

 「何ィ?」

 だが、乱射はまるで効いている様子が無い。スポエドーはそんなに強いモンスターなのか。

 「こんなこともあろうかとイワゼィル様からこのマントを賜ったのだ。こいつは攻撃を全て防ぐ!」

 「わけのわからんことを!」

 銃撃で起きた砂煙からウルフが飛び出し、スポエドーを殴る。しかし、ウルフはスポエドーを擦り抜けてしまう。

 「何だと?」

 「おかげでこちらからは攻撃出来んが、ゆっくり目的を果たせる」

 スポエドーは魔法陣を書き、準備をしていた。一機を縛る糸もスポエドー同様に攻撃を擦り抜ける。

 「俺達『ラグナロク』は人間やモンスターより進んだ存在! なのに貴様らみたいなサルが文明を残しているのは許せん!」

 「ラグナロク? 何それ?」

 スポエドーは自らを『ラグナロク』と名乗る。遊佐には最終戦争を意味する種族名にスポエドーの正体を見出だせなかった。

 「俺に攻撃が通らぬ限り、儀式は終わらない! この儀式は半径5キロにいる人間の魂を捧げる必要がある! 恐ろしいだろう、モンスター界なんざ行くことも叶わぬ正真正銘の死だ!」

 「これひょっとしてマズイんじゃない?」

 レアは少し冷や汗を垂らす。魂を捧げる、つまりモンスターである自分も例外ではないかもしれない。

 「に、逃げるぞ! 早く5キロ移動するんだ!」

 「逃げたきゃ逃げな! 奴を何とかしなきゃ大量の犠牲が出る!」

 レアは棗を守るために逃亡を提案する。ただ、ウルフは逃げるつもりゼロだ。スポエドーは完全に勝ち誇っていた。

 「フーハハハハ! 我が王復活の犠牲になるがよぐふぉ!」

 そんな彼に異変が起きた。どういうわけか、魔法陣を自ら消し始めたのだ。

 「どうやら、攻撃は防げても幻覚はダメみたいだな」

 「き、貴様は!」

 金時計に拘束されていた朝凪の姿は無い。代わりに、黒い鎧を纏った銀髪の少女がそこにいた。黒いマントをはためかせ、その姿はまさに魔王。

 「そうだ。私こそ、魔王クロードだ!」

 「クロードが目覚めた!」

 「朝凪一機か、妹を泣かせたくはない。貰うぞ」

 驚くウルフを他所に、クロードはレアと遊佐からマテリアルを奪う。レアは元の姿に戻ってしまう。クロードは『悪夢』と『聖火』のマテリアルを入れたカードを手にし、それを取り込んだ。

 「このマテリアルは『呪縛刀黒無銘』と同じく、奴の想像の産物。これを奴の魂と合わせれば消滅は防げるはずだ」

 「き、貴様……せっかく目覚めたさせたのに朝凪一機を生かしたな! どうしても奴が死なないから最後の手段だったのに!」

 「ご苦労、だが死んでもらうぞ」

 「や、やれるもんならやってみろ! こうなったら皆殺しだ!」

 スポエドーはマントを脱ぎ捨て、クロードに向かって走る。棗はそこにスキルを放った。

 「【インペリアルクロス】!」

 「効かん!」

 レアのマグナムをまともに受けても、スポエドーには効き目無し。クロードは両手にロングソードを構え、スポエドーを待ち受ける。右手の剣は深紅の『スカーレット・ノヴァ』、左手のは漆黒の『オルトロス』。

 「ハッ!」

 「グゲボッ!」

 右手の剣を薙ぎ払い、スポエドーを切り裂く。すかさず、左手の剣で突きを放った。

 「グォボ!」

 さすがに刺さりはしなかったが、スポエドーはダメージを受けて飛ばされた。起き上がったスポエドーを、クロードは手にした薙刀でさらに突き飛ばす。これは『クロノ・メイデン』の武器だ。

 「おのれ……うご!」

 薙刀は巨大な鎌へと姿を変え、スポエドーの足を引っ掻けて転ばせる。鎌は妖刀に変身した。

 「よし、呪縛刀黒無銘に戻ったな」

 クロードは妖刀をしまい、黒い両手剣に持ち替え、そこに闇の力を集中させる。

 「特別にダーインスレイブの餌食にしてくれる!」

 「な、舐めるな! ラグナロクロード!」

 スポエドーは怒り、姿を変えた。蜘蛛の下半身を持つ巨大な化け物の姿だ。上半身は剣を持った騎士の姿である。

 「援護するぞ! って、硬いな」

 ウルフが殴ってみるが、かなり硬い。どんなに殴っても傷一つ付かない。

 「下がっていろ。死ぬぞ」

 「それはお前の方だ! スポエドーサーダ!」

 スポエドーはエネルギーで大型化した剣を構え、突進してきた。

 「ダークネス、スラッシュ……!」

 クロードはマントをドラゴンの様な翼に変え、それで天井スレスレまで飛翔する。そのまま剣を振り下ろしながら下降し、スポエドーを真っ二つに切り裂いた。

 「ぐぉおぉぉおッ!」

 斬られたスポエドーは紫色の炎に燃え上がり、そのまま石像みたいになる。そして、灰と化して崩れ去った。

 「クロード……なのか?」

 「お、レア。久しぶり」

 レアはクロードと面識があり、何よりシルバーバレットマグナムリボルバー『インペリアルクロス』を除くレアの使用銃器は彼女からのプレゼントだ。

 「さて、クロノはどこかな? お姉ちゃんが今行くぞ!」

 呆然とする棗達を置いて、クロードは走り出した。遂に目覚めた魔王、そして朝凪の運命やいかに。

 次回予告

 復活したクロード、だが引き換えに朝凪一機の魂は眠りに付いてしまう。

 一方、オアシス21でコーカサスナイトに襲撃されたクロノは、自分自身の力に目覚める。

 次回、プレリュードモンスターズ。『クロノの夜明け』。悪夢の果ての力、それは……。

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