表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

機能

 僕は君を抱く。君は僕に抱かれる。


 耳から鎖骨に向かってゆっくりと口づけをする。その度に君は体を小さく震わせる。そのまま下へ向かい、肝心なところには触れない。君は小さく息を漏らす。見れば見るほど美しい、きめ細かい肌。それを汚す僕の汚い唾液。肌に触れるか触れないか、それくらいの感覚で指を君の肌に這わせる。微かに汗ばみ、熱を帯びる。そして濡れる。求める。


 何度も何度も綺麗な君を僕の汚い体液で汚してきた。汚すたびに僕の気持ちは深く暗く落ちていき、けだるい心地良さだけが残る。事が終われば、君は僕に「好きだよ。」と言う。…君は僕を好きではない。君は、『この行為を行う僕の機能』が好きなだけだ。


 そもそも、僕はこの行為はそれほど好きではない。むしろ、嫌いな方かもしれない。ただ、多くの女性は僕にこの行為を要求する。それとなく、口には出さず、感じ取らせ、言葉無き圧力を僕にかける。僕はそれを断ることができない。断り方を知らない。何が楽しくて、この無意味な行為をするのか、何度も求めるのか、理解しかねる。おそらく、多くの女性にとって僕の存在は都合のいいものなのだろう。行為をただ受入れ、好意を持たない僕の態度が、単純に性欲を満たす道具としては、ちょうどいいのだろう。それどころか、ホテル代や飲み代の負担は僕になる。考えるだけでイライラする。それでも、イライラを態度に出せない僕が、やはり都合がいいのだろう。


 君だけが、僕に「好きだよ。」と言う。君だけが僕に嘘を吐く。女性にとって、…男性にとっても同じかもしれないが、この行為にはそういった理由が必要なようだ。彼氏だとか、結婚しているだとか、何かしらの理由をつけなければ、この行為をしてはいけないという考えがあるようだ。君は「好きだよ。」ということでこの行為を正当化しているだけで、真実を隠している。あるいは、君は本当にそう思っていて、そう錯覚していて『行為を行うからには好意があるに違いない』と気づかずに自分を騙しているのかもしれない。自分に嘘を吐き、誰かに嘘を吐く、それが無自覚だとしたら、君の自我はどこにあるのだろう。意思は。その意味は。


 何なら一人で性欲を満たせばいいじゃないか。そう言ってしまったこともある。すると君はひどく驚き、落胆し、悲しみ、泣いた。僕は困惑し、どうしていいか分からないから、とりあえず何も言わずに抱きしめて、近くにいた。すると君は泣き止み、腫れた目と鼻水がついた顔を僕に向けて「大好き!」と言った。理解しがたい。


 別に隠しているわけではないが、他の女性とこの行為をしていることを君に知られてしまったことがある。その時も君は悲しみ、泣いた。そもそも君と僕は独占の契約をしているわけではない。ただ、何となく君が僕の機能を求め、僕がそれに応えているだけだ。他の女性も同様に、僕はただ受け入れているだけだ。とはいえ、僕にもまったく常識が無いわけではない。そうすると多くの女性が傷つくことは知っている。しかし、僕としては『わざわざしてあげている行為』なのに、それを非難されるなんて、二重苦でしかない。あぁ、憂鬱だ。そろそろ真面目に断り文句を考えなければ。


 君は特に僕とのキスを好むようだ。いや、僕の『キスをする機能』を好むようだ。焦らしたり、変化をつけることを好むようだ。君がそれを口に出したことは無いが、君の体がそう応えてくれた。その通りに行為を行えば、回を重ねるごとに僕の機能は強化され、君はもっと僕を求める。「ねぇ、好きって言って…」と君が言うこともある。僕は何も言わず、ただキスをする。その言葉で何かが変わるとは思えないからだ。君はそんな機能まで求めるのか。求めるばかりで、何も返してくれないくせに。そう、何も返してくれない。以前、考えたことがあるが、女性と言うものは、これだけ僕が貢献しているにもかかわらず、何も貢献してくれない。ただただ僕から奪い、搾取し、自分勝手に生きる動物だ。僕が苦手とする生物だ。


 「あなたって、あんまり私を見てくれないね。」と、君が言った。いつもの行為が終わり、微睡みかけているその時に。どういうことだろう。これだけ君を見て、触れているのに。続けて「私は、あなたが好きだよ。」と言った。いつもの言葉だ。何度も何度も聞いた、いつもの言葉だ。僕は何も応えず、いつものように心の中でそれを否定する。君が好きなのは僕の機能だ。僕ではない。背を向けて煙草に手を伸ばすと、君が後ろから抱きついて、背中にキスをした。何だ、まだ物足りなかったのか、と思い、君の方に振りかえる。すると…



潤んだ目と、困った顔。

そうして僕を苦しめる。






君は、僕を、好きではない。

僕は、君を、こんなにも好きなのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ