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ループ20  作者: 甘辛
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この世界はつまらない。

ある男がそう言いました。

その男はたいへん貧しく、一日のご飯にも困っていたほどでした。


彼は、世界の全てが大嫌いでした。

憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて、仕方がありませんでした。

彼の職業は、地面に道具を並べては道行く人に手品をみせる、言わばマジシャンでした。

しかし、かぶり過ぎでよれよれになった帽子からハトを出してみても、薄汚れたステッキから花を出しても、誰一人振り向いてもくれません。なので彼はお金がなく、毎晩道端に薄っぺらい毛布を敷いて寝ていました。しかし誰も彼に、同情さえしないのでした。彼はそんな人々を、そんな世界を、憎んで、恨んで、怨んでいました。

ある日のこと、男はいつものように路上で、手品を披露しようと道具を一つ一つ確認していました。

すると彼の目の前に一人の小柄な男が立ち、こう言いました。


世界を殺す気はあるか。


男が呆気に取られ、しばらく何の事だか分からずに居ると、謎の男は続けました。


世界に絶望する者は、世界を変え得る者。

世界を忌み憎む者は、世界を創り直す者。

私とともに、新たな文明を築く気はないか。


男は、その謎の人物の言葉に何故か引きつけられました。

そして、こう考えたのです。


人々に、手品の素晴らしさを伝えたい。

自分を蔑んで来た人々を、手品で見返したい。

自分の人生の全ては、手品に注いで来た。

いつか人類が皆、手品を使い、手品に頼るようになったら…。






その後街から、一人の男が消えました。






それから幾つもの月日が経ち、その昔暖炉だった暖房器具は、ストーブになりました。その昔かまどだった台所の要は、コンロになりました。


全てが動く原理は、奇術(マジック)と呼ばれるものでした。


奇術があれば火が起こり、奇術があればネジを捻れば水が出る。

こうして、この世界に奇術は無くてはならない物になりました。

もう奇術なしで生きることが出来る者はいません。

誰も、

奇術を馬鹿にしません。

そんな世界が築かれたのでした。


そう、その新しい世界の基盤の裏に、一人の貧しかった男が深く関係していることは、誰も知らないのでした…。

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