第四章 接触
「……それ、見えてるだろ」
不意に
声をかけられて、
私は
顔を上げた。
放課後の教室。
私以外に
人は
もういない。
「何が?」
とぼけたつもりだった。
でも、
彼は
迷わず
言った。
「人の間」
私は、
微笑みながら
彼の
目を
見た。
「……見えてる、って何」
断つ人は
少しだけ
眉を
ひそめた。
「やっぱりか」
「なにが?」
「いや。
確認」
彼は
それ以上
説明しなかった。
代わりに、
私の
目を
真っ直ぐ
見た。
「そこ、苦しいだろ」
私の
鼓動が
加速した。
誰にも
言われたことがない
言葉だった。
「……なんで、
分かるの」
「分かるよ。
放っておくと、
壊れる」
「壊れる?」
「人が」
短い言葉。
断定的な声。
それでも、
私の
心を
乱すには
効果的な
残酷な言葉だった。
「でも、
まだ何も起きてない」
私は
反射的に
言った。
「ほら、
やっぱり見えてる。
…起きてからじゃ遅い」
「切るの?」
問い返すと、
彼は
一瞬だけ
黙った。
私から
目を
そらして
口を
開いた。
「必要なら」
「……切らないって選択は?」
私の
目を見て
彼は、
はっきり
首を
振った。
「ない」
私は
胸の奥が
ざわつくのを
感じた。
「私は……」
言いかけて、
やめた。
何を
言えばいいのか
分からなかった。
「見るだけか?」
彼が聞いた。
「……うん」
「それで耐えられる?」
「分からない」
彼は、
少しだけ
私を
見た。
評価する目でも、
否定する目でも
なかった。
「向いてないな」
「え?」
「切らない側」
私は
思わず
笑った。
「そっちこそ、冷たすぎ」
「そうしないと、持たない」
彼は
そう言って、
視線を
逸らした。
「名前」
「……なに?」
「名前、聞いてなかった」
私は
一拍置いて
答えた。
「——」
「そっか」
それだけ言って、
彼は
教室を
出ていった。
残された私は、
さっきまでよりも、
線が
はっきり
見えることに
気づいていた。
そして、
思った。
(あの人も、逃げてない)
その事実が、
なぜか
少しだけ、
怖かった。




