第7章『最大戦力』たちの日常②
もうしばし2人を見守ってあげてください。
〜映画館〜
〈犬で紡ぐ100の物語〉
館内の照明が落ち、スクリーンが白く光った。
ポップコーンの匂いと、微かなざわめきが、ゆっくりと消えていく。
(今さらだけどよ)
(今さらだけどさ)
同時に、互いの存在を意識する。
(好きなジャンル、意外過ぎね?)
「……意外とこういう感動系好きなんだねー。
アクション系とかだと思ってたよ」
「感動系っていうか、動物ものは全般好きだな」
「へぇぇ……」
一拍。
「……ぷ、くく……! あっは!」
「なんだコラ」
「その風貌で! その顔で!意外性No.1だよ!萌えー! 炎夏くん萌えー! ひぃー!」
「やっぱぶっ飛ばすかコイツ」
そのやり取りを、少し後ろの席から満足げに眺める人物がいた。
「……そのギャップが良いのです」
小さく、しかし確信を持った声だった。
――――――
映画は終盤に差しかかり、やがてエンドロールが流れ始める。
館内にゆっくりと明かりが戻る。
「…………」
「……おい」
「………………グス」
「もう泣き止めよ」
「あんまりだぉぉ……
犬達みんな助かったと思ったのに〜……
ケガした仲間に付き添ってたワンちゃん……
2匹とも死んじゃうなんて〜……」
「……確かに。守るように覆い被さって死んでるシーンは…ちょっときたな」
「だよね!?もうちょい主人公が到着すんの早かったらなー……」グス
(……泣き顔、初めて見た……)
「グス……」
「ほら」
差し出されたハンカチ。
「ありがと……」チーン
「……かむな」
その様子を、今度は呆れ半分、面白さ半分で眺める影がある。
「……なにこれ、青春?」
映画館の外では、何事もなかったように人々が行き交っている。
だが確かに、この時間だけは――
彼らにとって、静かで、穏やかな日常だった。
踏み込みます。
「戦力は規格外」でも2人は「透明」と同じではありません。




