第6章 『最大戦力』たちの日常
1年前に四季彩威は崩れた。けれど日常は続く。
〜あの惨劇から1年後〜
とある日の、待ち合わせ
人の波が途切れない場所で、僕は立ち止まっていた。
視線は落ち着かず、つい足元を見つめてしまう。
「………………」
スカートの裾を、指先がつまむ。
(やっぱり着替えようかなぁ……
こんな格好、僕らしくないって思われそうだし)
そもそも、これはデートなんかじゃない。
たまたま予定が合っただけ。
ただ、それだけ――のはずで。
(……ただのオフだし)
⸻
〜回想〜
「あらあら、それはデートというものですね」
「デっ!? 違うって!
映画の話になって! たまたま気になってるのが一緒だったから観に行こうって……」
「お誘いは、そっちから?」
「な、なんとなくそんな流れになったって感じで……てか普段から僕らってよく絡んでんじゃん! その延長ってだけだよ!」
「………………」
「なにさ」
「それでいい」
「なにが!?」
⸻
〜回想終わり〜
(……やっぱデートじゃないし)
「うん、着替えよう。
まだ時間あるし、いつも通りパーカーで――」
「よう」
「!? や、やっほー炎夏。早いねー」
「お前もな。任務でもわざわざ遅れてくるようなヤツが。雪でも降るか?」
「なにさ。頭の中が年中暑苦しいヤツには丁度良いじゃん」
「……」
「……」
一瞬、空気が張り詰まる。
「……服」
「え?」
「服、いつもと違うな。髪も少し変えたのか?」
(っ、そこ見る!?)
「あ……まあ。久しぶりの誰かとのオフで、せっかくだし?」
(服は分かるけど、髪は少し切ってもらっただけなのに……)
「へぇ。結構、印象変わるもんだな」
「……僕がスカートとか、自分には似合ってないって分かってるつもりなんだけどさー。
でも、僕的には気に入ってるんだよー……」
「じゃあ好きな格好すれば良いじゃねえか。
俺は似合ってないとは思ってねえ」
「……え?」
「普通に可愛いとは思うが……違うのか?」
(……さらっと言うなよ)
「……そ、そりゃありがてぇ……」
「おい待て。引くなコラ」
(引いてないよ! ほんともう……)
「……今日はワイシャツなんだね。
結構爽やかな感じで、似合ってるよ」
「……そうか?」
「まあ普段から暑苦しい頭の中してるし、たまには換気しないとねー」
「ぶっ飛ばすぞ」
軽口の応酬。
いつも通りで、でも――少しだけ違う。
少し離れた場所、物陰から。
「良きです。良きです」
満足そうな気配だけが、静かに漂っていた。
しばしの日常パートです。
それは戦力として完成した2人が選んだ、新しい在り方。
※本作の世界観・能力設定はこちら
https://note.com/yoro4649 (note用)




