第5章 「 追 撃 」
同日 とある場所。
夜の冷気が、破壊された空間に滞留していた。
「……痛厶」
歪んだ声が、静寂を裂く。
「右腕……右足……アノ時カ」
床に残る血痕は凍りつき、白く濁っている。
呼吸は浅く、動作の一つ一つに遅れがあった。
「捨テ身……ダト思イ……油断シタ……」
金属音が転がった。
何かを落とした音。
「……ダレダ?…イマ……ハ疲レテル」
その声に、間延びした軽さが被さる。
「いがーい。疲れるとかそんなのあるんだー?
急に親近感湧いちゃうじゃーん」
闇の中から、足音もなく近づいてくる気配。
「……痕跡ハ……全テ……ケシタ。辿ルコトナド……」
「お、さっすが鋭い。でも夜に『僕』から逃げるとか無理無理〜」
声は楽しげだった。
「夜は気をつけなきゃー。どこに危ないヤツがいるか、分かったもんじゃないしねー」
「……ダレダ」
「アンタがさ〜。殺したヤツの〜…」
一瞬の、間。
「── 仲 間 だ よ」
空気が、軋んだ。
「……!……四季……彩威……」
「はーい、四季彩威の秋夜でーす」
軽い調子。
だが、その視線は一切笑っていない。
「……手負いの状態のテメーを逃がすわけねーだろ、クソ野郎」
足元の影が歪む。
「〈黒雲珠〉」(くろうじゅ)
低く、短い宣告。
ズズズズ……
闇が凝縮し、形を持ち始める。
「!」
「…あっは。それ、絶対に振りほどけないよー」
「……ナンダ……コレハ……」
「……〈画彩能力〉……ジャナイ……?」
「そ。だからー」
一歩、距離を詰める。
「呑まれて消えろ」
声は低く、冷たい。
「害虫が」
闇が、すべてを覆った。
(暗転)
この後、どうなったのか
答えは次回。




