第21章 【明けがこない夜】
1年前には見せなかった哀しい「秋夜」の〝本気〟
重たい衝撃が、連続して街を叩き潰した。
地面が沈み、建物が悲鳴を上げる。
重力そのものが、何度も何度も叩きつけられる。
「炎夏を返して……」
秋夜の言葉と同時に、さらに重圧が増す。
空気が潰れ、視界が歪む。
「返してよ……」
足元が砕け、周囲の構造物が耐えきれず崩壊していく。
「 か え せ ぇ ぇ ぇ ぇ ! !」
叫びは、感情ではなく“現象”だった。
無数の重撃が波のように連なり、逃げ場を削り取る。
連続する圧迫。
間断なく押し寄せる、重力の塊たち。
「……重力の……奔流……!」
わずかに混じる、焦りの気配。
その時、ふっと圧が緩んだ。
「ちょっと……」
距離が一瞬で詰められる。
空間が歪み、目の前に“在る”。
「話、聞いてる?」
次の瞬間、『透明』の腕に鋭い衝撃音が響いた。
硬質なものが砕け散る感触。
「……牙?」
「そう見えたの?」
淡々とした声。
しかしその距離は、あまりにも近い。
「……じゃあ生きたまま……」
一拍。
「 四 肢 を 噛 み 砕 く。ま ず は 死 な せ な い 」
理解が追いつかない。
直感だけが警鐘を鳴らす。
1年前に『凍傷』を殺害した時も
その後に追いかけてきた『秋夜』とも
(……これは……)
先程まで『視』て闘り合っていた
『炎夏』とも『春塵』とも違う
透明にはなかった感情――
(……『視』ている時……ではない……)
『恐怖』
⸻
【反転】
「……炎夏……」
低く、掠れた声で秋夜が呼びかけ。
一度、息を吐く。
「『夜喰』」
その言葉と同時に、黒い柱が空間を貫いた。
噛み合うような音を立てながら、闇が実体化する。
「……黒い……柱……」
「これ」
「 避 け ら れ な い よ」
一瞬で重さが落ちる。
逃げ場を押し潰す、絶対的な重量の塊。
身体が地面に叩きつけられ、内側から悲鳴が上がる。
(……重……過ぎる……!)
それでも、意識は切れない。
(……だが……)
一瞬、気配が消えた。
「……消えた……」
次の瞬間、背後から風を切る感覚。
(重力の異能……再現不可……なら……)
「『黒』闇夜」
闇が広がる。
地面そのものが溶けるように、秋夜を引きずり込む。
(……地面に……吸い込まれる……)
「バッカみたい……」
その声は、呆れに近い。
「!?」
透明の理解が及ばない。
(『闇夜』は発動している…し続けている…なぜ……)
(立てる……?)
「アンタさぁ……『色』しか見えないんだね」
その瞬間、秋夜の違和感に気づく。
(...左目だけ……開けている……?)
―緻密な重力操作によって空間そのものを歪める“空曲”―
右目が担うのは、重量。
左目が司るのは、軽量。
「!!」
「……軽量……!」
「説明、いらないよね? ガリ勉野郎」
点と点が...繋がる。
(……そうか……これが……)
宣告のように、名が落とされる。
「 重 竜 」
その名が意味するものを、理解してしまった。
「……天 敵……か……」
夜は、まだ終わらない。
明ける兆しすら、どこにもなかった。
『透明』戦。
これにて決着。




